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ぼくとサイン会の筆跡
ぼくを知っている方も知らない方も、こんにちは。
TikTok小説家の東 真直(あずま まさなお)です。
知らない方にとっては「TikTok小説家ってなんだ?」って感じだと思いますが、まぁそういう珍妙な生き物がこの世にはいるらしい、くらいの理解度のままスルーして大丈夫です。ぼく自身よくわからないので。
さて本題ですが、先に今回の記事の全てをネタバラシしておきます。全文読むのがダルい人は、これだけ
第五杯_人間万事塞翁が馬(後編)_小説版『晒し屋』
※以降の内容には小説『掃除屋』『壊し屋』のネタバレを含みます。まだ読まれていない方は小説『壊し屋』を読んだ上で、以降を読み進めることを推奨します。
弟は全てがチグハグだった。百九十センチを超える長身に、童顔で、短髪で、一見すると二十歳そこそこの青年に見える。しかし言葉を交わすと、まるで年端の行かない子供と会話しているかのように、その語彙も、表情も、幼かった。例えるなら、大人の体まで成長してから
第四杯_人間万事塞翁が馬(前編)_小説版『晒し屋』
それは今から数年前、まだ俺がフリーの記者をやっていたときのことだ。当時の服装は目立たないよう、地味なスラックス、黒いシャツに濃い緑のジャンパーを羽織り、リュックを背負っていた。カメラを持つ両手を空けておく為だ。髭なんてロクに剃っちゃいなかった。自分の見た目になんて、興味はなかった。
記者と言っても実際は、人様の尻を追っかけて、人様の弱みを写真に収め、有ること無いこと記事にして飯の種にする社会の
第三杯_藪をつついて蛇を出す_小説版『晒し屋』
仕事をする上で最も重要なのは、仕事をしないことだ。その仕事は本当に、自分がやるべきことなのか。他人に任せた方がいいのではないか。よしんばやるとして、労力とリスクに見合うだけの対価はあるかを考える。場合によっては断り、場合によっては他人に仕事を流し、場合によっては交渉する。目についた仕事に飛びつくのではなく、まずはこうして仕事そのものを精査し、やらない仕事を明確にすることが、最初の仕事と言っていい
もっとみる第二杯_備えあれば憂いなし_小説版『晒し屋』
殺し屋という仕事には、命の危険が付きまとう。だから俺は常に最悪の事態を想定し、可能な限りの準備を怠らない。その準備の一つに欠かせないのが、休日だ。体を休める意味でも、心を休める意味でも、仕事で最高のパフォーマンスを発揮する為に休日は無くてはならないものだ。仕事なんてものは、やろうと思えばいつまでだってやってしまえる。しかし無理をすれば知らず知らずのうちにパフォーマンスが低下し、それはこの仕事では
もっとみる第一杯_人事を尽くして天命を待つ_小説版『晒し屋』
人にはそれぞれ役割がある。公務員も、アイドルも、駄菓子屋も、ラーメン屋も、クソみたいな記者だって、その仕事はあるべくして存在していて、その職に就いている人間は、本人が望んで成っていようが、そうでなかろうが、その役割を全うするしかない。他に生き方を選べたような気がしても、そんなものは気のせいだ。生まれたその瞬間、もう石は川に落とされている。その石がどう流れ、どの流木に当たり、どこへ流れ着くかなんて
もっとみる【第3頁】過ちを赦す【赦し屋】
辛気臭い面をした男だった。自衛隊の過酷な訓練にも顔色一つ変えず、笑いもせず、泣きもせず、聖書ばかり読んでいた。この国には信仰の自由がある。誰が何を信じていようと構わないし、奴の上官だった俺もそれにとやかく言うつもりは無かった。ただ、興味があった。
信仰を失うとしたら、それはどんなときなのだろう、と。
奴に、相楽(さがら)にレンジャー課程を勧めたのは俺だった。それに相応しい能力があると見込んだ
無人鬼_其の零『無人鬼』
本土から離れた孤島には、鬼人と呼ばれる人々が暮らしていました。私が訪れた喜日島、別名『鬼灯島』と呼ばれるその島には、女性の姿しかありません。凶悪な鬼の血を絶やす為、男性には別の島が用意され、それぞれの島は隔離されていたのです。
鬼人とは、鬼のような人。他者には理解され難い強烈な加害的衝動を持つ者達。つまりは、ただの人間でした。ですが人々はわからないものに恐怖し、差別し、隔離し、彼女達を鬼ヶ島へ
食人鬼_其の九『食人鬼』
いただきます。
『やっぱ帰りたくなっちゃったー?』
港近くにある浜辺に一人で座り込み海を眺めていると、後ろからラビちゃんの声が聞こえた。いや、そんなはずはない。彼女は死んだのだ。だからこの声の主は、きっと声真似で人の神経を逆撫でする天才、一針子猫に違いなかった。
『一緒にこの島抜け出しちゃおっかー』
「私だけきっと地獄行きです。一緒には行けない」
『それならウチも地獄行きだよー』
「違います
食人鬼_其の八『猟師の勘』
殺されてしまうと直感した。
それを咄嗟に「不味そう」と言った。
人間は何も食べなくても、数週間は生きられる。水分だって取らなくても数日は生きられるそうだ。と、何処かの誰かが言っていた気がする。情報源、最近はソースと呼ぶのが流行りだろうか、それが実にあやふやなザックリとした記憶ではあるけれども。つまり、私がこのまま飲まず食わずで耐えることが出来れば、一週間後にはきっとあの世でラビちゃんに会え
食人鬼_其の七『人と人々』
自分が欲していた言葉は。
相手が欲していた言葉だった。
倉庫の中が薄暗かったので、殺さなければならないと思いました。
「近寄るなって言ってるだろ!」
蛙の鳴き声が煩かったので、殺さなければならないと思いました。
「つ、次は脅しじゃない!」
赤目の少女が泣いてたので、殺さなければならないと思いました。
「くそ! くそ! くそ!」
弾丸を避けようなんて、考えてはいませんでした。そんなこと
食人鬼_其の六『餌の時間』
待っていて。
待っているから。
「制服が、煙草臭い」
喫茶店『せせらぎ』で時間を潰そうと思っていた私だったが、密室に籠った煙草の煙に耐えかねて退散してきた。そうして今は、さかなさんが教えてくれた『餌の時間』に使われているという、倉庫前に座り込んで、有村さんが出てくるのを待っている。それにしてもマジでクセェ。
「まぁでも、私ももしかしたら気がついていないだけで、体臭がキツいとかあるかもしれな
食人鬼_其の五『鬼と鬼達』
親は誰かと愛し合えたから。
この世に生を受けたんでしょ。
「とまぁ、カッコつけて学校を飛び出して来たわけです。でも要は仲直りしてきなさいって大人に諭されただけのことでして。別に喧嘩しているつもりもなかったですけど。そりゃ許せませんよ、私の友達を食べたわけですから。でも、知っちゃったんです。人を食べないと生きられないって、どういうことか。それがどれだけ辛いことで、苦しいことで、狂うしかないのか
食人鬼_其の四『師の土産』
待っていたのかもしれない。
憧れが迎えに来てくれるのを。
「、、、きなさい、、、」
んん、、、。なにぃもう。
「起きなさい」
朝ご飯の時間かにゃ?
「授業の時間です」
そこでハッと我に返り、机に突っ伏していた顔を上げた。資料室の長机には散乱した沢山の本と、私の汚ねぇヨダレが広がっていた。恐る恐る振り返ってみると、太った女性が私を見下ろしていた。というか先生だった。
「わ、あの、すみませ