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文字も時計もない世界

息子が字に興味を持ち始めてしばらく経つ。

でもまだ教えたくない。

文字という知識の代わりに

何かを失ってしまいそうだから。

科学で証明されていないことの方がずっと

楽しかったり

怖かったり

魅力的だったりする。

知識が邪魔をすることがあるから。

わからないからおもしろいのだ。

だから、


文字のない世界でもっと遊ぼ。


時計のない世界でもっと遊ぼう。


三歳の息子は、

まだ字が読めません。

そして、まだ時計が読めません。

彼は一体どんな世界に生きてるんだろう?


「寝るのが遅くなっちゃうからお風呂入ろう」

という私に、

「いや、まだ入らない。もっと遊びたい」

とおもちゃだらけの床を離れない。


「もう保育園行く時間だよ、遅刻しちゃうよ」

という私の後ろを

「カエルさんで急ぐ!」

とぴょんぴょん跳ねながらついてくる。

普通に歩いた方が断然早いんですけど!

とがっかりする母のうしろで

精一杯のカエルジャンプを魅せている。


彼の生きている世界と

私の生きている世界は

なんだかちょっと違うんだ。


時間という制約のない世界。

文字という制約のない世界。


彼の世界を想像するけれど、

もう私には想像できないの。

いつかこの子も、

私のようになっちゃうんだろう。


それまでは

文字のない世界で一緒に遊ぼ。

時計のない世界で一緒に遊ぼう。


母さんにも、もうしばらく

そっちの世界を覗かせていてね。







※2020.2.7に書いたものを転載しました。


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