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011「アズレリイトオン」


「アズレリイトオンは、とてもとても長い歌なんだ……」

「何個かのメロディーが主軸になっていて、
状況によって、組み合わせを変えれば、
長くも短くもなるの」

「……ジャズのセッションみたいなものなのか?」

「うんうん……そうそう、ただそのセッション相手が
人ではないってだけ」

「音で説得する感じかな〜」

「そっちから、こっちにおいでって」

膨らみを見せはじめた下腹部を撫でながら、リリィはクルトに話した。

なぜ? 身重の身体のリリィに歌い手をさせるのか?

何度か団長に掛け合ったが、言葉を濁されるだけで一向に変えるつもりもないようだった。

クルトが、このサーカスの狂気に気がついた時には、手遅れだった。

その大きな街のはずれでは、悪魔にとりつかれた者をダーザインと呼んでいた。

街では、ダーザインの兆候が現れた者は縛られ、崖から落とされた。

自ら飛び降りる者もいた。

ダーザインの恐ろしさは、精神が錯乱するからではない……。

まず、物音に敏感になる。

そして、感覚が異常に研ぎ澄まされる。

太陽の光に耐えられなくなり……

最後に、死ぬことが出来なくなる。

普通の人間なら、心を保つ事など到底できはしない。

だから、ダーザインになる前に、死を選択するのだ。

この年は、街のあちこちで、ダーザインの兆候が現れはじめ、街中が絶望に包まれていた。

そこに、ジプシーが到着した。

そして、リリィは救世主に成った。

リリィは、その【アズレリイトオン】の唄によって、一度に10人、20人のダーザインを人間に戻した。

しかも、リリィにはダーザインの兆候が現れない。


まるで、奇跡だった……。

そう……まるで、

【アズレリイトオン】によって、ダーザインから取り出されたダストは、どこに?

ダストは、より結晶の密度が高いところに集結する。

それは、命の密度が最も高いところ、

リリィではなく、その下腹部の新しい命に……。

クルトが、団長からその真実を聞き出した時には、手遅れだった。

「……歴代の歌姫は、死産する」

「もしくは、共に死を選ぶ」

クルトは、ジプシーからリリィを奪って逃げた。

そして、


僕は産まれたんだ。



この記憶を父から観た瞬間、僕は能力に目覚めた。
初めて使った暗示は『スベテワスレテ』だった。

そして、父は、僕の存在を忘れた。

僕は、名前を失った。







【執筆中】

よりよい作品が作れるようがんばります。 よろしくお願いいたします。