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【佐藤真澄さん/津軽こぎん刺し古作模様愛好家】忍耐強さ、平穏を保つ術として、今。

「こぎん刺しのどこに惹かれたの?」「あなたにとってのこぎん刺しとは?」彼女に出会ったとき、わたしは矢継ぎ早にそんな質問を投げかけたことをよく覚えている。彼女とは津軽こぎん刺しの古作模様愛好家・佐藤真澄さん(都留市)。あの日のことも振り返りながら今の心境をゆっくり語ってもらった。


■ 津軽こぎん刺しとの出会い

もともとベビー雑貨などを作って販売していた真澄さん。ふと、手芸屋さんでこぎん刺しの模様に目がとまり、人のすすめもあってキットを買って作ってみたところ、面白さに引き込まれたという。一日だけ東京のカルチャースクールで刺し方の基礎と「伝統の模様(もどこ)」があることを教わった以外は、本やInstagramで他の人の作品を見て、真似して刺して…と、ほぼ独学。それでも刺すたびに模様の広がりや作品ができたときの達成感を感じ、もっとできるようになりたいと続けてきた。

真澄さんがはじめて刺した思い出の作品

こぎん刺しは暮らしのなかでちょこっとできるもの。みんなに知ってもらいたい、触れてもらいたいという想いが次第に湧いてきて、マルシェなどで作品を並べ、販売するように。関心を持ってくれる人がいたらいいな~と、手に取ってもらいやすい模様、デザインを選んでいたという。「イベントがあるからこそ習得できた技もあるし、いろいろ吸収できた時期だった」と真澄さんは振り返る。


■ アナログな作業をしながら時間をかけて作品をつくっていきたい

2018年12月、真澄さんとわたしがAtoZではじめて話した日のこと、彼女はこぎん刺しの作品集の1ページにある大きなタペストリーを指さして「本当はこういうのが作りたいんだけど…」とつぶやき、「作ればいいじゃない」とすかさず返した何気ないエピソードがあるのだが、そのちょっとしたやりとりがその後の彼女の意識を変えるキッカケになったそう。

「広めること」や「誰かのために」以前に、初めてこぎん刺しに出逢ったときのトキメキ、どんどん魅せられていく感覚、自分の心の源泉を大切にこぎん刺しと向き合っているうちに、おのずと古作模様・枠模様を刺し進める日々が続いたのだそう。「200年前の枠模様、パソコンを使ってしまえば簡単なのだろうけど、昔の人たちも図に描いて計算しながら、間違えたりできないこともあったり、わたしもそういうアナログな作業をしながら時間をかけて作品をつくっていきたいなと。」そして布や糸も津軽のものを使いたい、こだわりが強くなっていったという。


■ 津軽の昔の人たちと重なり、忍耐強さ、平穏を保つ術として

自由に出かけられない時間が続いた今だからこそ、こぎん刺しをして気づいたことが多かった。「こぎん刺しは津軽の厳しい冬のなかで忍耐強く生きている人たちがやっていたもの。古作模様を刺すことでその人たちの芯の強さを感じられ、自分も小さいことでクヨクヨしなくなったり、周りに惑わされず平穏でいられるための術になっている感じがする。」

「(古作模様を)刺すと、よく間違うんだよね」と苦笑いの真澄さん。「間違ったら糸をほどいてやり直す、そんなところからも昔の人たちの忍耐強さを感じる。間違いに気づいて、今日刺し進めたところは全部無駄!というときは悔しいけれど。でも無駄ではないんだよね。」

わたしが真澄さんに惹かれる理由はこの、上手下手、技術の上達ということだけでなく、こぎん刺しからいつも今の自分の状態や精神的な成長を感じとっている在り方にある。しかも「わたしなんて、まだまだ下手だから。」と真澄さんはよく言うのだけれど、それは決して自己肯定感の低さからの言葉ではなくて、こぎん刺し古作模様の先にある真髄や昔の人たちとつながることから生まれる謙虚さであり、見習うべき美しさだとわたしは思っている。

念願のタペストリーが完成したと見せてくれた

■ 教える立場になっても等身大のままで

以前カルチャースクールなどで教える機会があったときは、どこかで未熟、恐れ多い…といった気持ちがあったそうなのだが、自分が作りたかったものを日々刺しつづけたことで自分に自信がでてきたという。やり続けている自信。そして、その自信が生まれたことで肩の力がぬけ「自分はまだまだ」だと生徒さんに言えるようになり、技術だけでなく伝統工芸としてのこぎん刺しの魅力を真澄さんのフィルターを通して楽しく語れるようになったという。

自分が好きなものを誰かに伝えたいと思ったとき、どう伝えるか?の方向に走りだすよりも、どこまでも自分がそれで満たされている姿でいるかが何よりも一番大切だと真澄さんを見て改めて思う。

記事更新:2020.07.13

※2024.04現在 真澄さんは月に1回、ご自宅で「ちいさなかたち」という会を開催しています。

日々の暮らしとこぎん刺しを楽しむ
津軽こぎん刺し古作模様愛好家
佐藤真澄さん
https://www.instagram.com/2kuru_m/


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