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水野の天然記念物

12月3日、せと 歴史と文化財を知る見学会「水野の天然記念物」に参加した。愛知県瀬戸市の水野地区は市中央から北方、水野川沿いの訪ねどころの多い地域だ。今回は4本の名木とその周辺の歴史を巡る半日のコース。郷土史研究家の松本博司氏、自然に詳しい上杉毅氏、埋蔵文化財センターの岡本直久氏に解説していただいた。主催は瀬戸市文化課と(公財)瀬戸市文化振興財団。

水北町のイチョウ

「水北町のイチョウ」は『瀬戸の名木』の1番、幹周395cm、樹齢約200年。折しも紅葉シーズン、周辺の山は広葉樹がところどころ黄色や茶色に黄葉しパッチワークのようである。その背景に明るい黄色のイチョウの巨木が堂々とそびえていた。

御林方奉行所 説明板

 イチョウを東端として、周辺は江戸時代、「御林方奉行所(おはやしかたぶぎょうしょ)」の敷地であった。尾張藩の山林「御林」では、村人が無断で狩猟、樹木の伐採、薬草・キノコの採集をしてはならなかった。当初はその「御林」の管理をする役所であった。江戸時代中期になると、守備範囲が知多から美濃と広大になった。現在の農林水産省にあたり、100人近い役人が勤めていた。水野と言えば水野代官所がよく知られている。代官所と御林方奉行所の二つの役所があるため、水野の住民は「名古屋城の城下町のようだ」と自慢にしていたのだという。代官所跡は現在の水野小学校。二つの役所は1㎞ほどの距離があり、役人たちは足繫く行き来したと思われる。その際、水野川を渡る橋が「御用橋」であった。これまで何気なく見過ごしていた小さな橋が江戸時代には重要ルートであり、今も使われていることに感慨を覚える。

御用橋

御用橋と御林方奉行所の間は、現在は民家が点在する田畑であるが、江戸時代には豪華な「水野屋敷」があったという。尾張藩主の狩猟の宿泊用で、3700坪の大名屋敷であった。一帯は一段低い土地であり、明和4年(1767)の大洪水の被害を受けた。同洪水は本日最後に訪れる、内田のイチョウの大木周辺にも被害を及ぼしている。

北脇の大ムク 

地区内に「北脇の大ムク」があり「愛知の名木」、「瀬戸の名木」の37番に選定されている。ムクノキは甘い実がつくのでムクドリが好む。葉の裏がザラザラしており、サンドペーパーとして使われたという。以前は見上げるほどの高木であったが、剪定と水路の工事のためか勢いが衰えている様子。とは言え、幹の下部は年代を感じさせる堂々たるものだ。樹齢は600年ともいわれている。樹下に石像(馬頭観音?)、津島社、祠堂が並んでおり、地域に大切にされていることがうかがえる。

三社大明神社

 西へ移動、三社大明神社には瀬戸市指定天然記念物の「マルバタラヨウ」がある。タラヨウとモチノキが自然交雑した新種であり、全国でも珍しいものである。水野在住の日比野修氏が1984年に発見した。

マルバタラヨウ

モチノキは境内にあり、樹皮からトリモチを作った。

境内のモチノキ

タラヨウはハガキノ木とも言い葉の裏をひっかくと字が書ける。

タラヨウの葉
タラヨウの葉の裏

愛知環状鉄道・中水野駅の周辺一帯は内田町遺跡。水野川が大きくカーブする内側の、南北約400m、東西約750mの広さだ。駅前ロータリーや周辺道路の整備のため、平成10・11年度に一部の発掘調査がおこなわれ、縄文時代、古墳時代、中世の遺構、遺物が確認された。例えば、縄文時代の「落とし穴」が見つかったという。穴の底には尖った杭が立てられていて、野生動物を捕まえたと推測されているそうだ。4000年以上前のことがそこまで詳しくわかるとは。

愛知環状鉄道 中水野駅  

 水野交番の横に「内田町の大イチョウ」がある。『瀬戸の名木』の2番、幹周309cm、樹齢約250年。車道沿いにありよく目立つ大木だ。明和4年(1767)の大洪水では、このイチョウを残して下水野村の郷島(現在は本郷町)の部落全てが流出したという。イオン瀬戸みずの店にも近く、筆者も親しんできた大樹である。ところが、周辺の再開発で伐採される予定なのだという。「大木は一朝一夕のものではありません。地域のランドマークであり、地元の人たちに大切にされてきました」と市役所文化課の佐野さん。長い年月の間人々の暮らしに寄り添い歴史を見てきた巨樹は、地域の財産であり、シンボルである。伐ってしまえば二度と戻らないものだ。是非とも、いつまでもこの地を見守るシンボルツリーであり続けてもらいたいと思うのだが。 

内田町の大イチョウ(上杉毅氏撮影)

水野地区の見どころは多く、半日ではまわりきれない。今回はちょうど黄葉まっさかりのイチョウとマルバタラヨウを中心にしたコースであった。春には水野川沿いの桜並木や水野まつりがあるし、季節の窯めぐりもある。今後もあちこち散策したいものだと思った。                                                                                                             上杉あずき@STEP

 参考文献
せと 歴史と文化財を知る見学会「水野の天然記念物」 資料
『瀬戸の名木』 1997 瀬戸市教育委員会

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