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腰骨の痣儚げに横転しゆく


なよやかな腰骨の痣儚げに横転しゆく私は女

ザラザラした声鳴らして数年でなんだか草臥れてしまった君からのLINEを気にしながら銀杏を踏んでいた。銀杏だったか?いや銀杏だ。
寂しいと言うと君は困るので、寂しいと言わなくなってから本当に寂しくなってしまって私は何に怯えていたのか分からなくなってしまった。私が行きたいと言ってすぐに連れて行ってくれた旅行で夕飯の懐石料理に飾ってあった葉は見事に青かった。

私は人間である前に女であるのか、女である前に人間であるのか時々分からなくなって唇が震える。私の好きな死んでしまった歌人が唇に宝石を咥えているからだと言うのだからそうなのかもしれないけれど、それはオパールであると良いなと思う。オパールは濁っていて、あまりキラキラしなくていい。

老舗のホテルの温泉で、老女達が私の裸体をジロリと睨んだ。ほんの一瞬、ナメクジのようなじっとりした憎しみを感じた。私は女である、だがこの震える赤い唇も高い化粧水を弾く白い肌も首筋も徐々に枯れて壊れている。皆未熟か壊れかけで、どこが正常だったか分からない程だ。美とは暴力的で、女に常に付き纏う。曖昧な不安を抱えながら、それを上回る仕方なさで堂々としているように見えているらしいが。

私はもう沢山の事を見過ぎてしまい、近頃めっきり目が悪くなってしまった。嫌な事を見なくても済むのはいいが、嫌な物を避けるのも見えないと難しいのでなかなか厄介である。
もう昔のように沢山喋ったりしなくなって、無言の時間が増えているがそれがゆったりとした時間に思えるのは君だからだ。鏡で自分の顔が良く見えなくなったので美しいか醜いかどうかももう分からないが、君は今が一番綺麗だと言うからそう言う事にした。

昔は、もっと美しくなりたかった。なれると思ってたからだ、今は違う。美しくなるより先に老いていく坂道になったのである。やはり上り坂より下り坂のが楽だ。美しくなりたかった時はなんていうか、凄く苦しくて、悲しかった。美しくなければ誰にも愛されないような気がしたり、醜くなれば人生が終わると思った。実際にはそうだったかは今でも分からない。下り坂を私は一旦しゃがんだり振り返ってみたり自由に動く事にした、出来るだけ美しくありたいと願うことにした。

あまりに寂しくて無茶をしながら笑っていた頃、私を見て泣いてくれた人が何人かいた。
普通の女の子だってこと、忘れないでねと言っていたけど私はもう普通の女の子ではなく、というか普通にもなれず結局こんな所まで来てしまった。途方に暮れながら変な笑顔で誤魔化したりして、密かに恨んだりして。

でもやはり、寝たきりになってお化粧も出来ずに汚くなってしまった私を見捨てるんだろうなといつも思ってしまう。そんな所を見られる位なら遠くへ行って死んだ方がマシかと野良猫のようにちいさく唸った。

君が手招きをする、そちらへ行くと頭を撫でてくる。昔の痣は、未だ消えず。白い肌に一輪倒れている。




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