見出し画像

「わかれうた」(中島みゆき)裏読み解釈

「わかれうた」の裏読み解釈を行うと、表面的には別れに対する嘆きや孤独を歌っているように見えるこの詩が、実はそれ以上に深い人間関係の機微や、自己肯定、または自己欺瞞が隠されていることが浮かび上がってきます。裏読みの視点では、主人公が語る別れの悲しみが、実は彼女の深層心理である「別れへの恐れ」や「別れを迎えることで自分を守っている」といった意図が見えてくる可能性があります。

1. 別れに執着している自分への慰め

「途に倒れて だれかの名を 呼び続けたことが ありますか」


この問いかけは、別れの痛みを強調しているように見えますが、実はここに隠された意図として、主人公が「痛みを引きずり続けること自体に依存している」という可能性があります。誰かの名を呼び続ける行為は、ある種の自己慰めや、別れに対する執着心を表しており、過去に囚われ続けることで「本当の意味で前に進むことを避けている」ことを暗示しています。

2. 別れを恐れながらも、無意識に求めている自分

「別れの気分に 味を占めて あなたは 私の戸を叩いた」


ここでの「別れの気分に味を占めて」というフレーズは、別れが単に悲しいものではなく、何かしらの快感や心の充足をもたらしていることを示唆しています。彼女は意識的には別れを嘆き、悲しんでいるものの、無意識のうちに「別れ」そのものを求め、追いかけているのではないかという解釈ができます。

また、彼女が「あなたの眼を見ずに 戸を開けた」という行動も、別れを恐れているように見せながらも、別れに対してどこか受け入れざるを得ない自己防衛の姿勢が含まれています。つまり、彼女は「自分が傷つく前に、相手との別れを予感し、それを受け入れることで自分を守ろうとしている」のかもしれません。

3. 幸せを手に入れられない自分への言い訳

「別れはいつもついて来る 幸せの後ろをついて来る」


ここで描かれる別れと幸せの関係は、幸せを追い求めていながら、それが手に入ると同時に、別れが訪れることを暗示しています。しかし、裏読みでは、このフレーズが「自分が幸せを手に入れることを無意識に恐れている」という自己否定の表現と捉えることができます。彼女は、幸せになりたいと願いながらも、実際にそれを手にすることに対してどこかで恐れを抱いており、別れを運命のように感じることで、その恐れを言い訳にしているのかもしれません。

4. 別れ唄を唄い続ける自己暗示

「誰が名付けたか 私には 別れうた唄いの 影がある」


ここでの「別れ唄を唄い続ける」という描写は、別れの痛みに囚われ続けること自体が、彼女のアイデンティティの一部となっていることを示唆しています。裏読み解釈では、彼女が「別れ唄」を歌うことで、自分自身を慰めている一方で、「別れに囚われ続けることによって本当の意味での前進を避けている」という可能性が考えられます。

彼女は無意識のうちに、別れを繰り返すことで自分自身を「別れの唄を唄う人」として確立し、別れに浸ることで自己防衛をしているとも考えられます。ここでは、別れに対する自らの執着が、自分を守るための手段となっていることが暗示されています。

5. 美しい別れに対する憧れと、残される者の自虐的な行動

「恋の終わりは いつもいつも 立ち去る者だけが 美しい」


別れの瞬間、立ち去る者が美しいと感じるのは、残された者が自分の醜さや未熟さを強く感じているからです。彼女はこの「美しさ」に対して憧れを抱いており、実は自分が「美しく立ち去る側」になることを夢見ている可能性があります。しかし、その立場に立つことができず、常に残される側にいることへの苛立ちや自虐が、ここでは暗に表現されていると考えられます。

また、彼女が「残されて戸惑う者たちは 追いかけて 焦がれて 泣き狂う」と表現するのは、残された者の姿を哀れむ一方で、その感情に浸ることで自己満足を得ている可能性があります。彼女は自らが残され、追いかけ、苦しむことで、「私は愛されていた」「私はまだ相手を愛している」という感情に浸り続けることを選んでいるのかもしれません。

6. 孤独に囚われ続ける自分

「あなたは愁いを身につけて うかれ街あたりで 名をあげる」


ここで彼女が歌っている「あなた」は、別れの後もその愁いや孤独を抱えつつ、街で名を上げる人物です。裏読みでは、この人物は彼女自身を投影した存在とも捉えられます。つまり、彼女自身が「愁い」を身にまとい、別れや悲しみを糧にして自らを表現し、それによって周囲に認められることを求めているのです。

「眠れない私は つれづれに わたれうた 今夜も 口ずさむ」

ここでは、彼女が眠れない夜に「わたれうた」を口ずさむ場面が描かれています。この歌は彼女にとって、悲しみや孤独を感じるたびに繰り返される癖のようなものであり、彼女自身がその感情から抜け出せないことを象徴しています。裏読みでは、彼女が「わたれうた」を口ずさむことで、無意識に自らの感情を固定化し、孤独や悲しみから抜け出すことを避けていることが考えられます。

---

「わかれうた」裏読み総括

裏読み解釈として、「わかれうた」は単なる別れの悲しみを歌った詩ではなく、別れそのものに対する依存や、別れに囚われ続けることで自分を守る姿勢が浮かび上がります。主人公は別れに対して恐れを抱きながらも、無意識にその別れに浸ることで自らの存在意義を見出し、さらに「別れ唄を唄う」という行為でその感情を再強化しているのです。

彼女は幸せを手に入れることを恐れ、常に別れがついてくることを予感しながら、その予感が実現することでむしろ自分自身を納得させているかもしれません。この裏読みでは、彼女が別れに対して悲しみや未練を語りながらも、実はその別れに安住し、別れの痛みが自らを支える基盤となっていることが浮き彫りにされています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?