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うたがわきしみの宇宙Ⅱ

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140文字では収まりきらなかった、うたがわきしみの世界観。コラムやエッセーやうわごとじゃない。あくまで、なにかしら、きしみの宇宙を匂わす作品になっているものたち。主に詩。ギャグ系…
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2017年1月の記事一覧

『100万回目の溜息』

幼い頃「百万回溜息をつくと魂が抜かれちまうよ」と祖母が言った。そんな祖母は87歳で、今もぴんぴんしている。明るく強い人だから、あまり溜息をつかないのかもしれない。 迷信なのはわかっていたけれど、まだ幼かった僕にはそれがなぜだかとても恐ろしく、よせばいいのに、その日からついてしまった溜息をかかさずカウントするようになってしまった。 不思議なもので、気にすればするほど溜息の数はどんどん増え、その増えた溜息にまた落ち込み、更に溜息をつくという悪夢のような悪循環に陥った。その結果

僕の中原中也がない

神様と連絡が取れない

本音という建前

「好物は思い出」

『きしんだオモチャ箱』

言いたいことなんて特にないのだけれど。 今日も僕は自分のオモチャ箱をぶちまけて ありったけのオモチャを見せにいく。 きしんだオモチャを。 誰もそこにいない。かもしれない。 誰も笑ってくれない。かもしれない。 誰も泣いてくれない。かもしれない。 (お母さんは今日も確実に愛してくれない) だから僕は自分のオモチャ箱をぶちまけて ありったけのオモチャを見せにいく。 誰でもない君に。 きしんだオモチャを。 見せにいく。

『公務員28号』

公務員28号は目を覚ました。 身支度を整え、すぐに職場へと向かう。 「幸せ豆腐」 「幸せパンツ」 お決まりの挨拶を事務的にすませ、席につく。 デスクの上には黒いディスプレイ以外何もない。 チェアから伸びた黒いプラグを自分の首の後ろに刺すと、 ディスプレイに「ネオ台東区」のロゴが浮かび上がる。 広いワンフロアにひとりきり。 新年を迎えたからといって特別何かが変わるわけではない。 咳ひとつ聞こえない静まり返った職場。 ネオ台東区区役所のすべての事務処理を一人もくもくとこなす

泣くたびに美しくなっていく君 いつか海から迎えが来てしまうのか 涙で磨かれてきた身と心は どこまでも淡く透き通っている この世のすべての悲しみを ひとり抱えて消えていくみたいに 毎日頬を濡らしてきたのに 自分のために泣いたことは一度もない 涙姫 彼女が微笑むのは最後の瞬間だけ