はたけで戯れ

このnoteは、ランダム単語ガチャより出てきた単語を全て入れて書いたものです。
制限時間15分(+1分)ではたけと同時に行います。
優劣をつけるためのものではありません。書き手の個性をお楽しみください。

単語:蝋人形、経験則、浦島太郎




もう何時間経ったのか、私はずっとこの場所に留まって、ぴくりとも動かないその物体を、じいっと眺めて、“その時”を待っている。
その物体は、人間の姿をしている。ように見える。体つきや服装などから人間に見えるが、実際触ってみたら蝋人形で、生命も魂も持たないモノかもしれない。腹の辺りをじっと見てみても、呼吸も鼓動も感じられない。とても静かだ。私はじっと黙りこみ、ひたすら“その時”を待っている。
ここへ来てからどれだけの時間が経ったのだろう。目の前の物体について思考をする間、どんどん渦を巻くように時間感覚が狂っていく。この空間だけが、世界から、時間的に隔離されているようだ。“その時”が来たらここを出て、でもそのときにはもう私の知り合いや友人たちは死に絶えている。そんな気がする。浦島太郎は世界に置き去りにされる。私もきっとそうだと思う。しかし、私はここを出ることができない。“その時”を待つことしかできない。
物体を眺める。それしかすることがない。男に見える。30代前半といったところか。タートルネックセーターにジーンズ。髪型は洗練されている。経験則から偏見で決めると、彼の職業はIT企業の社長の右腕だ。彼は、私の目の前の床に体を横たえ、じっと天井を、見つめている。
私はこの物体を、殺したのだろうか。

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