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【ショート】夢物語『鳳凰』

仕事の帰りの私。部長と課長に色々言われ、ため息をつきながら電車に乗って帰る。いつも通り最寄り駅で降りて、いつも通り改札を出ようとした。ふと、私の左側で音が聞こえたので改札内にあるショップを見た。
 というのも、私の最寄り駅の改札内にショップがあり、会社から帰って来たときや空いている時間にもふらっと立ち寄ったりする。
 普段の買物ならいいが、今回だけは違う。パチパチという音がしたのだ。異変に気づいた私は左側にあるショップを見たのだ。他の人たちは異様な光景には目もくれず、そそくさと改札を通る。ということは私だけしか見えていないのか。
 私は恐る恐るショップを見る。すると、赤い炎が舞い上がっていた。火事だ。大事だと思い、近づく。とりあえず消防署に連絡すればいいのか?でもまわりの人たちは見えてない。
 一際炎が動くものが見えた。中に鳥がいたのだ。私は鳥にあまり詳しくないが、あの鳥はたしか、エミューとかだったはず。首が長くて…足の長い…ちょっとダチョウっぽい…いやいや、そんなこと考えている場合じゃない。一匹の鳥が取り残されている。どうにかしなければ。救助を呼ぼうか?掛けだが、自分で助けに行くか?いやいや、そんなことしたら二の舞いになってしまい、鳥さんとともにあの世行きだ。あー、どうすれば…。
 そんな恐怖と悲愴にかられる中、私は燃え上がる鳥をただ見つめることしかできなかった。が、燃え上がる鳥を見つめていると、何故か華やかさを感じたのだ。鳥の死を前にしているのに。鳥が痛いとでも言うようにのたうちまわる。しかし、私は美しさを感じた。まるで透明の箱の中で踊り狂う鳳凰のように。


 だんだんと意識が戻ってくる。夢から冷めたのだろう。私はなんていう夢を見たんだろう。死にそうな鳥を見て綺麗だなんて思っている。けれど、夢に鳳凰が出てきたのにはなにか意味があるのだろう。なにか自分だけしか来ない運が来そうな気がする。
 そんなことを考えながら今日も会社に行く準備をする。

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