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北条政子ふき芋

中学生の頃、家庭科の授業で粉ふき芋を作ったことを思い出し、作り方は覚えていないけれど、それっぽい物を作ってみようと思い立つ。


材料

ジャガイモ小 4個
青海苔    適量
バター    30グラム
黒胡椒    適量
塩      小匙1

こで終わる名前と言えば、女子だろう。まあ、最近は子で終わる名前の女性は少なくなったかもしれませんが、ともあれ、北条政子を妄想しながら料理。
実はのっけから前提を引っ繰り返すような話ですが、源頼朝の奥方が政子という名前だった証拠は何もなし。
建保六年(1218)に朝廷が三位の位を授けるに際して、文書記載のために便宜的に付けた名前であり、実際にそう呼ばれていたとは思われず。よく時代劇で頼朝が政子などと呼び掛けているのは、そんな訳ないということになる。まあ、ドラマはわかりやすくしなければならないので、仕方ない。


乱切りにしたジャガイモを圧力鍋で煮て柔らかくする。

伊豆国の武士、北条時政の長女として誕生した政子。(前述の通り、実名は不明ですが、便宜的にこう書きます)
ある日、妹から奇妙な夢の話を聞きます。
「太陽と月が同時に掌に入ってくる夢を見た」
「それは良くないことの前兆。私がその夢を買い取ります」
と言って、自分の小袖と妹の夢とを交換。
形のない夢を買い取るというのは、奇妙な話。この時代の人々はスピリチュアル系なことを普通に信じていたということか。
妹のために悪夢を買ってあげたとなると、何て優しいんだと思うかもしれませんが、実はこれは吉夢。知っていて買ったとなると、結構な策士?


バターをフライパンで加熱。

父の北条時政、都から流罪になった貴人、源頼朝の監視役でした。ところが、娘の政子が頼朝と恋仲に。これが都の平家に知られたら、北条家自体も危うくなると恐れて、別れさせようと図るものの、二人は箱根権現へ逃避行。
結局は時政が折れて、以後は頼朝の舅として後ろ盾に。
これが、政子が買った吉夢の始まり。
以後の展開は日本人の多くが知っている通り。挙兵した頼朝は平家を滅ぼして鎌倉に幕府を開き、武家政権の長へ。(実は幕府という名前も歴史用語で便宜的なもの。明確にそういう名前の組織が存在した訳ではない)


バターが溶けてきたら、茹で上がったジャガイモ投入。

北条政子という女性、日本三大悪女の一人と言われます。他の二人は日野富子と淀殿。
気性が激しく、男勝りというイメージからそう言われるのでしょう。それを物語る逸話として、うわなり打ちの話があります。
政子が出産のため、留守にしている間に頼朝は亀の前という女性と逢瀬。それを知った政子は牧宗近に命じて、亀の前が住む館を打ち壊させました。
もっとも、後妻(うわなり)打ちという風習は江戸時代まで普通に行われていたので、殊更に政子だけが恐ろしいとは言えません。
この後、宗近はどうして事前に自分に知らせなかったのかと頼朝に咎められることに。夫婦喧嘩のとんだとばっちり?
しかし、決して激しいだけの女性ではなく、鎌倉に連行された源義経の愛妾、静が義経を慕う歌と舞を披露して、頼朝が激怒した時には、自分達が箱根権現に逃避行した時のことを語り、静の思いはあの時の自分と同じと頼朝に説いて、夫の怒りを宥めて静を擁護。
静が都に引き揚げる時には、多くの贈り物を持たせたといいます。


塩と黒胡椒を加えて、更に炒める。

頼朝の死後、跡を継いだ二人の息子、頼家と実朝はどちらも殺されることに。それにも関与していたと言われることもあります。更に父親、時政を伊豆へ追放。
出家した政子は尼御台とか尼将軍とまで呼ばれることに。弟の義時と共に幕府を守るために自身が矢面に立つこともありました。
承久の乱に当たり、朝廷に弓を引くことに躊躇する御家人達に亡き頼朝より受けた恩を思い出すべしと演説した話などがそれです。


北条政子ふき芋

いい感じに崩れてきたら、青海苔を塗して完成。
ジャガイモには炭水化物が多いものの、塩分を排出する働きがあるカリウムや高血圧予防にもなるマグネシウム、食物繊維。
青海苔にはヨウ素、マンガン、ニッケル等の微量元素。海藻類は日本人にしか消化吸収出来ないとか。
ジャガイモの黄色に青海苔の緑が色鮮やか。バターの風味に黒胡椒が味を引き締める。

思うに、北条政子という女性、頼朝と共に作り出した武家政権という仕組みを守りたかったのでしょう。そのためには父や息子でも邪魔はさせないという覚悟。家族よりも夫と共に作り上げた幕府が大事ということからは、確かに男勝りかもしれません。
源氏将軍が三代で絶えた後、政子の弟、義時は摂関家から将軍を迎えましたが、吾妻鏡は実朝死去から政子が亡くなるまでの間、政子を鎌倉殿、つまり実質的な幕府の長として記述。正に尼将軍だったということになります。

粉ふき芋、肉料理等の添え物として使われることも多いかと思いますが、立派にメインを張れるように、黒胡椒と塩でしっかりとした味付けに仕立てました。
決して男の添え物ではなく、自分の思いを行動で示して、実質的に一時期は日本を治めたとも言える北条政子と呼ばれる女性のことを思いながら、北条政子ふき芋をご馳走様でした。

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