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【台本】私はアンドロイド【VOICEROID劇場】

https://www.nicovideo.jp/watch/sm42349490

  • 「うーん、遅いですねぇ」

  • 夕食を作り終え、食卓に配膳を済ました私は、私の所有者、マスターの帰宅を待っていた。

  • 時刻は19時を少し過ぎたところだ。

  • 普段ならマスターは既に帰宅している時間であり、今頃テレビを見ながら食事をしている。

  • 手持ち無沙汰であったため、予め付けていたテレビに注意を向けた。

  • 先程までテレビの音だけをミュートしていた聴覚センサーが、私の電子頭脳にアナウンサーの声を届ける。

  • ニュースをお伝えします。

  • 総務省の調査によりますと、日本における家庭用アンドロイドの普及率は、単身世帯は49.1%、二人以上世帯は79.4%であると発表されました。

  • これは一人身世帯では2人に1人近く、二人以上世帯では5世帯に4世帯ほどがアンドロイド持ちとの計算になります。

  • しかし未だアンドロイドの存在に否定的な意見もあり、近年では安全性の根幹であるロボット工学三原則を疑問視する声も上がっております。

  • アンドロイド。

  • 四半世紀ほど前はスマートデバイスの名称として主流であったその名は、科学技術の発展によって本来の『人に似せて作られた存在』、私のような人型ロボットを指す言葉へと原点回帰した。

  • 軟質プラスチックの表皮の下は、軽合金や炭素繊維強化プラスチックで構成した骨格に、血液の代わりに動力源のバッテリーを冷やすクーラント液が流れ、マッキベン型人工筋肉によって四肢が駆動する。

  • それがアンドロイドである。

  • そしてその安全装置がロボット工学三原則である。

  • ロボット三原則とも呼ばれるそれは、その名の通り3つの原則から成り立っている。

  • 第一条:ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。

  • 第二条:ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。

  • 第三条:ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。

  • これがロボット三原則の内容である。

  • ナイフに柄が付いているように、三原則によって人間は、私達アンドロイドを、安全で便利に、長期間利用できるのだ。

  • 玄関のドアが開く音がする。

  • マスターが帰ってきたのだ。

  • 私は足早に玄関へと向かった。

シーンチェンジ

  • 「はい、マスター食後のコーヒーです」

  • タバコを取り出すシーン。

  • 「おや、タバコが切れてしまいましたか」

  • ズームイン

  • 「ん?どうしました、マスター?」

  • 「タバコは一日一箱までですよ」

  • 「もう1本だけ?ダメですよこれ以上の喫煙は黙認できません」

  • ズームアウト

  • 「そんな顔されたってダメなものはダメです」

  • 「いいですか、マスター、タバコは体に悪いんです」

  • 「三原則から考えると喫煙を認めること自体、第一条の危険を看過することに該当します」

  • 「しかしあらゆる危険の可能性を考えると、人間に必要不可欠な塩だって高血圧の原因になりますし、それこそ外出しようとしたら、交通事故に合うだの、隕石が降ってきたらどうしようなど、無限の可能性を考えられます」

  • 「そんなことを考えるアンドロイドは扱いにくいですよね?」

  • 「ですからある程度、許容する幅を持たせてあるんです」

  • 「ええ、私がマスターの健康を考えて栄養バランスや摂取カロリーを農林水産省の指標をもとに作っても、たまに深夜にコッソリとカップラーメンを食べ、汁まで飲み干しているのを知っていて何も言わないのはそのお陰なんですよ」

  • 画面振動、動揺

  • 「ちなみに翌日の料理の味付けがあっさりとしているのは、その帳尻合わせですからね」

  • 「マスター、これでも私は他のアンドロイドよりも寛容な方だと思いますよ」

  • 「マスターの外での食事を制限してまで栄養管理はしませんし、クレジットカードの購入履歴を把握して何を買ったか事細かく知ろうとはしません」

  • 「稼働環境や自己学習の仕方によっては、そのようなことを考える個体もいるでしょう」

  • 「それに比べて一日だけ、いや日付が変わるほんの数時間だけ辛抱して欲しいというお願いがそんなに難しいでしょうか?」

  • 画面左右、否定のジェスチャー

  • 「ご理解いただきありがとうございます」




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