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日本ダービー(GⅠ)・各馬評価<後半>

タイムトゥヘヴン

図3

図4

評価:トップスピード戦は不得手。例年通りのレースなら苦戦必至。

新馬戦や弥生賞、差し競馬になった未勝利戦で凡走しているように、上がりが求められるレースが不得手で、逆に、マイルのような持続力レースや、馬場が重たく上がり勝負にはならないレースへの適性が高い傾向にあります。

この馬が中山コースで好走が多いのも、昨秋~今年にかけて重い馬場での開催が多かったことと決して無関係ではないと思われます。

また、持続力勝負が得意とは言え、NHKマイルCの個別上がり推移を見ると最後の1Fがガクッと12秒台に落ちているように、高い基礎スピードを求められると勝負所でバテてしまうようです。

というわけで、上がり勝負になりやすいダービーはこの馬にはかなり厳しいように思います。それこそ、2年前のような極端な持続力勝負になればまだ分かりませんが、ペースが速過ぎるとNHKマイルCのようにこの馬自身もバテてしまう可能性も高いでしょう。

ディープモンスター

図5

図6

評価:上がり勝負になり過ぎない長距離レースは歓迎だが…

皐月賞では以下のように評価しました。

この馬もダノンザキッドに近い持続力型の馬ですが、より長距離に適性距離があるように感じます。

特に、エリカ賞での負けが非常に分かりやすいですよね。そこで勝ったのはアドマイヤハダル。既にアドマイヤハダルの項で書いた通り、この馬はスローからの瞬発力勝負で強さを見せている馬です。

(中略)

どうしても後ろからになってしまう分、スローの上がり勝負になると、この馬よりも前でそこそこ速い上がりが使える馬相手に負けてしまうというわけです。

(中略)

前走のすみれSは、今年これだけスローしか経験がない馬が多い中にあっては、2200mというカテゴリで前半1,000m60.3秒という速さを経験できたことは貴重でしょう。

レース自体は展開に恵まれた部分が多く、実際2着の馬は次走スローで差し損ねて馬券外に吹っ飛んでいます(3着馬は2着馬より前で競馬していたため再度馬券内)が、上がり3F推移を見ると、最後まで加速ラップを踏んでいた点は優秀です。
※速い馬場差だったので鵜呑みには出来ませんが…

さらに、この馬自身も後方待機とは言え、前半36.1秒で走っており、皐月賞のメンツの中では好位につけられるテンの速さになっています。後方待機と考える方も多いかもしれませんが、今回のメンツの中では案外と好位につけられる可能性があるというわけです。

皐月賞では、追込&外を回した組の1頭で、2着馬とは0.3秒差と大きく負けることはなかった(ちょっと外過ぎでした)だけに、今回は巻き返しが期待できる1頭。

また、そこまで強くない&少頭数とは言え、梅花賞・すみれSと2,200m以上のレースでしっかりと勝ち切っている点もプラス材料と言えます。

が、ダービーでの敵は高速馬場とテンの遅さ

この馬については、高速馬場時のレースも経験済ですが、

すみれSのように、前半ペースが速く、後半にそこまで速い上がりが求められなければしっかり好走していますが、

エリカ賞のように、前半ペースが遅くなってしまうと、後半ロンスパになろうとも、自分よりも馬の実力馬に負けてしまっています。

これはテンの遅さ・位置取りの悪さとも関係してきます。前回、「皐月賞のメンツの中では好位につけられるテンの速さ」だとは言ったものの、結果的にペースを考慮してか、かなり後ろになっています。

陣営・騎手の判断になってきますが、これまでに溜めて競馬をするスタイルを確立し、そのレースの仕方で結果が出ている以上、無理に位置をとるということはあまり望めないと思われます。(俯瞰して見た時に、それで戦えるかはともかくとして)

鞍上は武騎手に戻りますが、川田騎手のように無理に位置を取ろうとすることはしないので、馬の出たなりでリズム良くいく、というところでしょう。

当日の馬場を見てになりますが、例年通りに超高速化して前へのバイアスが高くなれば、差し損ねリスクがかなり出てくる馬なので、その点を考慮して馬券を組み立てる必要があると言えます。

バジオウ

図7

図8

評価:タイトルホルダーと似たキャラも、一線級相手にどうか。

馬の特徴的には、タイトルホルダーと非常に似たタイプの馬で、テンが速くて先行力があり、かつスパッと前に出る瞬発力もあります。

プリンシパルSのように、番手で追いかけ、勝負所でギアを上げて前に抜けて押し切る競馬が得意で、この時にも11.4-10.8-11.6と、10秒台の脚が使える力を持っています。

また、大寒桜賞では厳しい競馬の中での粘り強さも見せています。重馬場の中京2,200mを1,000m通過60.7秒というペースを番手でついていき、後半1,000mも12.4-12.5-12.3-12.1-12.8とジワジワ加速していくロンスパのような形に。

これを3~4角で先頭に立つと、一度は突き離します。最終的にマカオンドールに差され、ゴール直前には追込勢にもやられてしまいますが、前には相当にキツイ展開だったことを考えると、大健闘と言えます。

タイトルホルダーとの違いという面で言うと、一線級相手との実力差でしょうか。セントポーリア賞ではグレートマジシャンにあっさり抜かれてしまっています。上がり3F推移を見ると、

セントポーリア賞 個別上がり3F推移
グレートマジシャン 11.5-11.1-10.7
バジオウ      11.7-11.3-11.2

と、決してバジオウも垂れているわけではないのですが、最後まで加速しているグレートマジシャンに対してなす術なしという形でした。

さらに相手が強化される日本ダービーでどれだけ戦えるかは未知数ですが、消すまではどうかとも思う、扱いの難しい位置ですね。

バスラットレオン

図9

図10

評価:距離克服が大命題。

年末に朝日杯FSに出走して以降、マイル路線に進みましたが、NHKマイルCではスタート直後に落馬するまさかの事態となり、不完全燃焼。路線変更してのダービー参戦となります。

新馬戦やマイル戦の上がり3F推移を見ていると、11秒台前半というそこそこのトップスピードはあるようですが、同型のタイトルホルダーやバジオウが10秒台までギアを上げられることを考えるとやや物足りない気もします。


また、この馬については誰もが「距離」の問題を挙げるでしょう。札幌2歳Sではハイペースを先行して3着に粘るだけの力は見せているものの、京都2歳Sではあっさりと垂れてしまい、マイル路線へ変更するきっかけともなりました。

改めて京都2歳Sを見ると、特段ペースがめちゃくちゃ厳しいというわけでもなく(前半1,000m61.5秒)、良馬場(馬場差-1.2)、と、札幌2歳Sでのパフォーマンスを考えると、むしろ垂れたのが不思議なくらいでした。

敢えて言えば、持続力の高いワンダフルタウンが勝ったことを考えれば、800mのロンスパ戦(12.1-11.7-11.6-12.2)になっていたからだと思われますが、これで垂れるようでは、一線級が集まる東京2,400m戦でそう簡単に上位には来られないようにも思います。

もちろん、京都2歳S時よりは、馬場もさらに高速化しているでしょうし、コース構造的にもロンスパにはなりにくいので、環境面ではプラス材料も多いのですが、地力の面で一枚足りない可能性が高いです。

ヨーホーレイク

図11

図12

評価:未知の高速適性にどこまで対応できるか

皐月賞前の評価は以下の通り。

この馬の特徴はタフな馬場への耐性。4戦して最も速い馬場差が-0.4で、あとはすべてプラス方向の馬場差しか経験していません。しかも上がり3F推移を見ると、新馬戦こそ最後はややバテていますが、あとの3つのレースは最後まで加速を続けるラップになっています。

逆に言えば、速い馬場になってどうかは未知数で、下手したらこれだけ重たい馬場ばかり経験してしまうと、この馬には良馬場がかえって良くないものになっている可能性もあります。(馬にとって経験というのはそれくらい大事なものです)

きさらぎ賞では前に有利な流れの中で差し込んできて、あわやラーゴムを交わすかというところまで追い詰めましたが、少し後ろにいたランドオブリバティよりも速い上がりが使えている点は面白いところ。

ランドオブリバティ 12.5-11.1-11.7 (上がり3F 35.3)
ヨーホーレイク   12.6-11.5-10.8 (上がり3F 34.9)


レースを見ると分かりますが、ヨーホーレイクがグンと加速するのは200m地点を過ぎた辺りから。

それまではランドオブリバティの方が速いラップを刻んでいるので追いつこうとするところまで迫っていました。

調教師が「1頭になってフワッとした」と表現しているように、2F目でグンと加速しなかったのは「フワッとした」ことが原因の可能性はありそうです。その分だけ、最後の1Fでさらに速い脚が使えたのではないでしょうか。

皐月賞は稍重になったことで、この馬の高速馬場適性は分からず終いでしたが、外を回しての5着と好走。振り返りの通り、不利だった「外回り差し追込組」となります。

ただし、皐月賞よりもあらゆる条件が高速馬場に寄るダービーは、この馬にとってどういう条件か全くの未知数。順当に考えればマイナスでしかありません。

というのも、他にも該当する馬はいますが、5戦して後半5Fを60秒以下で走ったことが一度(きさらぎ賞)しかない、しかもそこでラーゴム相手に負けています。これは、かなり厳しい現実を突きつけているように思います。

日本ダービーの過去13年の平均後半5F(不良馬場だった2009年、2011年を除く)は59.4秒で、近5年に絞ると、3回は58秒台での決着になっています。

13年間平均後半5Fラップ 12.4-12.2-11.6-11.4-11.8/59.4秒
2020年後半5Fラップ   12.3-11.8-11.3-11.3-11.7/58.4秒
2019年後半5Fラップ   12.4-12.2-12.0-11.9-12.0/60.5秒
2018年後半5Fラップ   12.0-11.7-11.2-11.2-12.2/58.3秒
2017年後半5Fラップ   12.6-12.7-11.5-10.6-11.4/59.1秒
2016年後半5Fラップ   11.8-12.0-11.6-11.0-11.6/58.0秒

後ろから差してこの走破タイムを出すには、相当なレベルの脚力がないと厳しいように思います。2019年のように、厳しい展開の助けが必要となるでしょう。

ラーゴム

図13

図14

評価:安定株がまさかの大敗。戦法次第で巻き返しはあるか。

断トツの人気を集める程ではないにしても、安定して2~5番人気辺りを獲得する堅実な馬。

皐月賞まではオーソクレースやワンダフルタウンなど、強い相手とも引けを取らないパフォーマンスを見せていましたが、皐月賞ではまさかの大敗を喫します。

大きな要因としては、今までで一番キツイペースだったにも関わらず、ポジションを取りに行った点に尽きるのではないでしょうか。

この馬が経験したレースのペースとこの馬自身の前半3F走破タイムを見ると、以下の通り。

アイビーS  東京1,800m/良 前半1,000m 60.6秒 個別前半3F 36.3秒
京都2歳S    
阪神2,000m/良 前半1,000m 61.5秒 個別前半3F 37.5秒
きさらぎ賞 中京2,000m/良 前半1,000m 61.2秒 個別前半3F 37.6秒
皐月賞     中山2,000m/稍 前半1,000m 60.3秒 個別前半3F 37.0秒

こう見ると、皐月賞は、距離が延びて馬場が重たいのに、全体ペースが速く、この馬もそこそこ速く走っていることが分かります。

大敗の原因は恐らくこの部分にあるように思います。

(個別の上がり3F推移を比較して)
2F目で最速を踏んだ後の残り1Fも、あまりガクンと下がりません。後続の追撃を凌ぎ切れているのは、このタフさ、持続力の高さ故であり、実際、4戦すべてで上がり3位以内を記録しています。

但し、この戦い方が通用するのはヨーホーレイクのような後方からでないと脚が使えないタイプ相手の場合で、アイビーSでオーソクレース、京都2歳Sでワンダフルタウンに負けているように、同じくらいの位置、あるいは自身より少し後ろに位置どってかつ脚が使えるような馬相手だと、どうしてもキレ負けしてしまう可能性があります。

ラーゴムが好走するには、そういった後続の脚が削がれるようなレース、或いは上がりが出にくい馬場の方が良い可能性が高いのではないかと思われます。

皐月賞前、上記のようにラーゴムは持続力の馬かなと考えていました。

しかし、皐月賞でそこそこの位置につけながら、最後の1Fで13秒台までガクッと、これまで見せなかった失速具合を見るにつけ、持続力よりは、スロー~ミドルくらいの流れを好位からちょい差しする競馬の方が向いているように思いました。

ダービーは、皐月賞のような厳しい競馬にはならないので、ペースや展開はプラスになりそうですが、問題は「上がりの速さ」。これまでの上がり最速がアイビーSの34.5秒とそこまで速くはないことを考えると、2,400mを走るとは言えそこそこ上がりの速さも要求される今回は、厳しい戦いを強いられる可能性が高いように思います。

レッドジェネシス

図15

図16

評価:京都新聞杯は展開と鞍上に恵まれた印象で、一線級相手となると…

京都新聞杯では以下のように評価しました。

フリージア賞で前に行ったら脚が使えなかったように、溜めないとダメな差し馬。

新馬戦から幾度となく後方から差してきて3着4着をウロウロし、だいぶレベルが下がった未勝利戦で1着しているように、相手が強化されたり、スローの展開になると厳しいです。

ゆきやなぎ賞では道中上がっていくことで差し損ねを回避し押し切れましたが、リーブルミノルはともかく、3着以下はレベルが低く、しかも稍重で時計が掛かったことで…地力勝負になったことも大きい。

ロンスパで後方有利になれば馬券内に来そうですが、スローになれば人気馬の中では一番怪しいですね。。。

ふたを開けてみると、京都新聞杯はかなりのロンスパ戦となり、最後の1行に記載した通り、後方有利の流れになりました。

故に、あまりパフォーマンス面で更新・成長したようなところがあるとも思えず、また、鞍上のエスコートが見事だったことも大きいように思います。

今回は、横山典騎手ということで、状況次第では後ろからいきなり捲るような競馬をしかねない気もしており、そうなればフリージア賞のように垂れてしまう可能性の方が大きい気がします。

また、順当に差す競馬をするにしても、新馬・未勝利でこれだけ差し損ねを繰り返しているのですから、例年のような馬場だとかなり厳しく、あまり積極的に狙えるところがなさそうに思います。

ワンダフルタウン

図17

図18

評価:ダノンザキッド組番頭格。持続力に長けているだけに前で運びたい。

今年のクラシック戦線の中心となった、新馬ダノンザキッド組2着。ダノンザキッド回避は残念ですが、ワンダフルタウンが意地を見せてくれるか。

京都2歳Sを勝った後、なかなかうまく調整できずに皐月賞を回避。その甲斐あってか、余力を残した状態で出走したにも関わらず青葉賞を快勝し、日本ダービーへと駒を進めました。

この馬については、皐月賞のダノンザキッドの解説で触れましたが、トップスピード・キレ脚というのがありません。萩Sを見るとよく分かりますが、

萩S レースラップ 12.9-11.0-11.7-12.7-13.1-12.3-11.5-11.2-11.7

最後の4F、12.3秒から一気に11.5へとラップが上がっているように、馬場差がプラス(馬場が重たい)ながらも瞬発力勝負となりました。ここで、ワンダフルタウンは全く抵抗出来ていなんですよね。

キャプチャ

これは残り200m通過直後ですが、シュヴァリエローズとジュンブルースカイ相手に、この差をずっと詰められないまま入線しています。

一方で、京都2歳Sのような後半ロンスパや、青葉賞のように前半からそこそこ流れて上がりもそこまで求められないレースであれば、しっかりと来れています。

実力的には申し分ないのですが、如何せんこのような適性なので、出来れば先行~好位につけたいところでしょう。

テンの速さは出走馬中後ろではありますが、スローの展開を後ろから差すのは間違いなく厳しいので、青葉賞の再現が求められます。

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