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Toturialを見てて唐突に出てくるパワーワード

CGツールなどの即時的知識を得るためにTutorialをよく見ると思う。しかし、眺めていたら、即時的な知識を得たいはずが、唐突に深い、哲学的な言葉に出会い考え込まされてしまうときはないだろうか。(超レアか。)機能以上の学び、しかも割と長尺で考えてしまう言葉や概念。最近Houdiniのチュートリアルをよく見ているのだが、そこそこな確率で哲学的なワードに出会うので、中でも気に入った言葉をメモ程度に残しておきたい。

The Threshold Concepts

1つ目はMark Spevick氏が「Houdiniにおける効率的な学習テク」なる動画で紹介されている閾値となる概念(The Threshold Concepts)だ。

The Threshold Conceptsが、単なる知識(Knowledge)や実際の運用(Application)と対置される形で図示されている。新しい認知を獲得する・境界を超えるための新しい考え方という意味合いらしい。Wikipediaにも同様の意味合いで記述がある

Threshold knowledgeは、核となる概念、もしくは閾値となるコンセプトを表現する、高等教育で利用されている言葉で、一度それを理解獲得してしまうと、既知の対象や現象、経験に対する認知を変容させてしまうコンセプトだ。
(原文: Threshold knowledge is a term in the study of higher education used to describe core concepts — or threshold concepts — which, once understood, transform perception of a given subject, phenomenon, or experience.)

The Threshold Conceptsは広範な知識同士を橋渡しし、知識自体に運用する上での意味合いを与える。

Houdiniにおいては、「プロシージャル」であること自体の特性や、より具体的に、「ネットワークのデータフロー」「シーンデータへのアクセス」「アトリビュート操作」「VEXやVOP」がThe Threshold Conceptsであり、個々のノードの機能やショートカットなどの知識を総合して意味合いを与えるとしている。The Threshold Conceptsの学習は不可逆であると述べられいて、つまり一度それを知ってしまうと知る前のワークフローや考え方にもどれない。だから境界値、閾値なのだろう。この学習は単なるKnowledgeの獲得よりも優先されるべき=学習のロードマップになりえる一方で、学習の過程で認知的不協和と苦痛を伴うものとなる。

とはいえ、Houdiniの場合は、The Threshold Concepts自体が他のツールと異質な点で見えやすく、しかも割とその部分の説明は世の中に潤沢にあるし、プログラマから見ると結構理解しやすい点もあるから、逆説的に自分にとってのThe Threshold Conceptsは、MayaなどのDCCアプリで暗黙的な標準的知識として説明が省略されがちな部分、となってくる。The Threshold Conceptsは自分から発見し理解するのは著しく難しい。

可能性の空間

メカ系のハードサーフェスモデリングで常にカッチョいい投稿をしている齋藤彰氏による講演で可能性の空間という言葉が紹介されていた。この言葉以前に、この動画、ワークフローの議論とか造形一般の議論とか自分で言うのはおこがましすぎるほど信じられない質の高さをほこる内容なので絶賛おすすめ。

氏自体もこの言葉はVFXアーティスト・リサーチャーであるAnastasia Opara氏の講演からの引用だとしている。おそらくこちらの動画。(ちなみに自分は、この方のVEXでGenerative Artをやる動画Tutorialをよく見ていて声とテンションにめっちゃ馴染みがある。)

言葉の意味あいは次のようなものである。

アーティストは、表現を考える上で審美や評価基準に対する軸を設定し、その複数の軸で構成されるn次元空間を脳内に展開する。これを可能性の空間という。アーティストの仕事はこの可能性の空間から余分な範囲を削り取っていく(彫刻していく)作業だ。

確かに抽象的なレベルでは、アートディレクションはこのような仕事であると思うし、Houdiniオペレータはこれをかなり具体的に可視化しチューニングしていく仕事だと思われ、納得感がある。この言葉は、表現一般のかなり抽象的なレイヤでも持ち出すことができるし、Houdiniのネットワークのパラメータ操作や、反復的・構造的なプログラム処理の記述というかなり具体的なレベルでも、わりと汎用性高く持ち出すことができる。

表現において、可能性は無限に広がっている。しかし、可能性を自ら限定して彫刻していかないと、良くて理解不能なものが出来上がるか、悪くて計画が永遠に終わらず頓挫する。削り取ってできたトリッキーな領域が個性とも言いかえられるし、その発見が意義とも言える。

作品に対して説明するとき、可能性の空間にその作品がどこにプロットされるかを可視化・共有できるのが望ましい。(各軸の値がどれくらいで、近傍のプロットはどんなものがあるかなどを説明する。)よく「作品を位置づける」とか「批評する」という作業というか言葉になんとなく嫌な・ダルい印象を持ってしまうが、「軸が明らかな可能性の空間で、固有のパラメータを明示する」というような作業に置き換えると腑に落ちる気がする(単に言い換えているだけだが)。こうした言葉を使うと、二項の対比関係(軸の正負)になりがちな議論が、自然とグラデーションをもった漸次的なものであり、かつ変化を許容するし、メタ次元に対して常に開放されているものだとなんとなく前提として想定できる気もする。

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またTutorialでパワーワードを見つけたら追加していきたい。また見つけたら教えてほしい。

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