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NFTコレクティブル "MOMENT" に関する覚書

NEORTにお声がけいただき、NFTコレクティブル "MOMENT" を制作させていただきました。本作は、2022年4月1日販売と展示をスタートし、4月30日に販売と展示を終了します。ここでは"MOMENT"についての覚書としてコメントを残そうと思います。

販売サイト
OpenSea

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作品説明

MOMENTは、桜の花弁をモチーフとしたNFTのコレクティブル(=花)と、ギャラリーNEORT++でのインスタレーション(=木)で構成されます。

個別のNFTは、プログラムによって個別にパラメータが生成され色や形が作られます。花に与えられたパラメータはNFTのmatadata内のアトリビュートや描画の背景に明示されます。

インスタレーションでは、浮世絵に見られるような構成・景・モチーフをコードで表現し、鑑賞者の四方を囲むように投影します。中央には花をつける木が配され、個別の花をフォーカスしたり、俯瞰したりと視点を変化させ、情景も時間軸で変容します。

NFTの販売期間はインスタレーション展示期間に限られます。NFTが購入されたとき、インスタレーション上で開花して可視化されます。

本作の制作については、まずNEORTのNIINOMIさんによって、大まかな構成(NFT+インスタレーション)と桜の花木というコンセプトが与えられ、花は私が、木は避雷さんによってアートワークが実装されました。また、コントラクトはTARTさんとtarumiさん、販売サイトはNEORTによって実装されました。

自己解説

MOMENTでは、NFTを用いて、桜を通して経験しうる一過性・刹那的な情緒を、鑑賞者や購入者が直観し解釈できうることを念頭に制作しました。

奇しくも、ここ数年、新型感染症によって風物詩であった桜の花見は暗黙的に人数を制限せざるを得ず、樹下にわいわい集まって酌み交わすことは困難になっています。加えて、隣国が他国に苛烈な武力侵攻をし多くの方が難民となっているこの春は、春を楽しむ気持ちに影を落とします。今年の桜には様々な感情が投影され記憶として結びつくかもしれません。

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MOMENTのNFTは、数値に則って形状や色のパターンを変容させるGenerative Art(GenArt)として生成されたものです。NFTが指し示す主な対象は、パラメータのセットと、それをプログラムに与えてできる図像です。GenArtは、数値を調整しながら探索的に図像を探していくいわば実験と採集のような手法です。ひとつひとつの花はいわば、ありえた無数のパラメータから偶然切り取られ選ばれたものです。その意味において本作を含むGenArt一般には、瞬間的・刹那的な儚さと、そこから感じられる美があります。ユニークに生成されたパラメーターは背景にすべて記されており、この点はデータの可視化でありデータアートにも類すると言えそうです。

花を数値表現によって形作るということは、芸術の領域で度々目にすることができます。直接参照した例に、村山誠の花をモデリングして設計図のように図示した作品群があり、その優れた表象は直接的な数理的造形が花の美を形成していることを主題としているように見えます。私はこれに影響を受ける形で、数年前にベジェ曲線だけで花を構成するというプログラムを書きました。

本作はこれを発展させる形で着手しました。花弁の背筋はベジェ曲線、断面はV字やW字などから選択、形状はinigo quilezのシェイピング関数から選択的に引用します。さらに、ねじれや正弦波による歪みをつけ、模様や穴をパラメトリックにつけることで完成となります。

色の属性は、「桜」「紅」「藤」「藍」「宇」の5つに限定しました。そのうちの4つは色の名です。最後の1つは直近の紛争に対する平和努力を仮託する色です。永松個人に分配される売上のうち、「宇」が出た割合に相当する金額がウクライナの難民支援として寄付されます。その他の色も同様に対応する寄付先を設ける予定です。一般財団法人ジェネラティブアート振興財団や特定のOSS運営団体などを検討しています。個人的にMetamaskなどのethのWalletは、エネルギー効率の改善が見込めない限り使用は控えようと思っているため、作家として得たethの収益は得ることはできず、NEORTを経由して全てを寄付することを考えています。

全体的な絵のトーンとしては、木と合わせて浮世絵を彷彿とさせるような絵づくりを指向しており、近世の代表的な版画作品、川瀬巴水といった描写力の高い近代の版画作品を配色や景のつくりを参照しました。また、データを背景に置くというアイディアは、文字要素とうまく同居したエッチングのJorg Schmeisserの作品を参考に着想しました。それ以外にも過去の多くの版画作品や漫画などのこれまでの図像表象から無意識に影響を受けていると思われます。

GenArt作品は言うまでもなく、過去の多くの技術的・知的資産によるところが大きく、コードにおいても直接的・間接的な参照が見られます。本作では、そうした参照意識も自覚的になろうという意味合いから、背景にPackageとして記述しています。これはnpmを利用する際につくられるpackage.jsonからの引用であり、外部のモジュール依存を直接的に表しています。

コミュニティによる継続的な活動が大事とされるNFTにおいて、敢えて一過性を打ち出すことは忌避されるべきことかもしれないですが、逆説的にその限られたインスタレーションをともに彩っていくという感覚を花見で得たであろう情緒とともに共有できれば幸いです。

NEORT++では今後も継続して作家紹介やNFT作品の企画などを進めていくと思われますので、その今後の活動も見守っていただければ幸いです。(本展示以降も面白い企画が控えているようです。)同時に作家個人としてもちろん、この作品をきっかけにして継続的にNFTに関する作品制作や言論空間でのアプローチをしていければと考えています。引き続きよろしくお願いいたします。

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