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雪ぐ人

「雪ぐ」と書いて「そそぐ」と読む。雪ぐのは着せされた汚名、冤罪である。99.9%が有罪判決を受けるというこの国の司法にあって、実に14件の無罪判決を得たことのあるのが今村核弁護士である。彼はどうやって無罪判決を得るのか。検察側への異議申立てるだけでなく、積極的に無罪を立証しているからに他ならない。本来、被告側に無罪を証明する義務はない。証明すべきは検察側から有罪であり、その主張に矛盾があれば有罪は立証されたとは言えず無罪とされるべきである。

だが、推定無罪ならぬ推定有罪が慣例のこの国の司法にあって、異議申立てをしているだけでは無罪判決は降りないのだ。14件もの無罪判決。まるで正義のヒーローのように聞こえるが現実は非情にも過酷である。報酬はほとんど得られず、弁護士事務所に所属している今村弁護士はすなわち儲けは少ないことを意味し、同僚弁護士には肩身がせまい。儲けにもならない冤罪事件を火災実験までして無実を立証しようとするその姿勢は、時に変人と見られることも少なくない。

冤罪事件ばかりを受ける自らに随分悩みもあったようだ。たが最近は少しふっきれたようでもある。歪んだ司法を知ったいま、そのままにしてはおけない。それが困難な道を行く冤罪弁護士のたった一つの信念である。「一隅を照らす」。そんな弁護士がこの国にはいるのだ。航空機事故は事故調査委員会が立ち上がるのに、誤判はどうして誤ったのかという調査委員会が立ち上がらない。第三者が調査すべきではなかろうか。それさえなされないのであれば、誤判をなくそうという姿勢があるとは到底思えない。


以前、読書メーターに書いたものを再掲しました。
今村核弁護士は、先8月20日ごろ、亡くなられたのだそうだ。
59歳。私とほとんど変わらない年齢である。

こういう人にもっと光があたってほしい。

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