堀下年鑑2018

さて年末ということで恒例の年末回顧である。

一月

・大学院入試で心が死んでおり何も覚えていない。日記も手帖も白紙。落ちたら進路未定という状況だった。

・たしかこの頃、柳元君と吉川君とでメイド喫茶に行く。「句会しましょう。こっちへいけば普通の喫茶店、こっちへいけばメイド喫茶、どちらがいいですか?」。票が散らばることはなかったのである。そしてたどり着いた某店で新人メイドAちゃんにおれは一目ぼれ。席題を出してもらう。直後にAちゃんは諸事情で退店するも、裏垢で相互フォローに。彼女はしばらく裏垢に自撮りをUPしていたが、やがて次の店が決まったと言ってアカウントを消した。おれは結局、その新しい勤務先には足を運ばなかった。

・【世相】小室哲哉が引退を表明した或る雪の日、常磐線の車内で赤ん坊が生まれる。

二月

・大学院入試に合格。面接の感じがどうもだめっぽかったので人生をあきらめて虚心にバイトに打ち込んでいたところだった。決まったあとは大学の友人たちと凧揚げやバドをしたりして遊んだ。

・【世相】金嬉老事件から50年。

三月

・大学卒業。

・中七に「時としてある」を詠み込む句を募集する「時としてある俳句大会」を開催。どうせ30句ぐらいしか来ないだろ、と思っていたらタグがトレンド入りして二五三句も来てしまう。〈世の中に時としてある土筆かな〉(内橋可奈子)など素敵な句がたくさん集まった。

・仕事で高知へ。空き時間に横山隆一記念館に行く。横山の世代が漫画家の職能団体を立ち上げた功績の大きさを知るなど。あと横山所蔵の「トキワ荘の壁」など変な展示が多くて面白かった。

・【世相】太田理財局長「いくらなんでも」

四月

・院入学。韓国人研究生のチューターになる。一度彼は兵役で休学していると聞き、ああなるほど韓国はそうだもんな、と〈兵役のあとの復学松の花〉という句を発表するも、あとでよくよく聞けばここには書けない不思議なパワーで徴兵逃れに成功して別の労役についていたらしい。

・外国人向け観光ツアーで俳句を教える仕事はじまる。以後季節ごとに実施。

・芝不器男俳句新人賞にて対馬康子奨励賞を受ける。選考会の雰囲気が分からずスーツで行ったら、受賞する気満々の人みたいになる。対馬さんの顔がタイプ、とつねづね言っていたのを、のちの表彰式の折、酔ったサトアヤ氏が対馬さんにバラす。やめろ。

・生駒さん宅に遊びに行く。〈おふぱこといふも和やか荷風の忌〉(惣一郎、席題「和」)に衝撃を受ける。

・【世相】山口メンバー引退。おれの妹はこれを疑問視。

五月

・あんぱん先生のツイートをトゥギャった「俳句甲子園指導の心構え」(togetter.com/li/1226046 )を作成。この頃ツイッター上にて、俳句甲子園は全然安全じゃない論を展開。この年、俳句甲子園実行委員会の見識への疑問、ますます募る。

・筑波大学新聞の連載「ぶらり俳句筑波大」にて「新歓」を季語にした作品を発表。三年目に入った同連載、今年度は大学及びつくば市内のイベントに密着し、あれこれとお祭りに行く。担当編集は今年度から名編集者オチ。オチが卒業するとさびしい。

・惣老師と筑波山へ。土産物屋のおばあさんと仲良くなる。筑波山のお土産屋さんはヒキガエルを飼っているんである。曰く「育ち過ぎたからそろそろ逃がしてもっとちっこいの捕まえようと思ってんです」。

・筑波大、天井が落ちる。 

・松山から進学してきた温と神保町へ。片端から俳書を買うのを見て顔を青くした彼女はそのうち棚を先回りして「こっちへ来ちゃだめです! 俳句の本があります!」

・れなりんと鞆彦さんの披露宴。おめでとうございます。おれが関東に来た頃には大学三年生だったれなりんが……と思って光陰矢の如しの思い。

・飲み会で知り合った愉快なメンヘラ、たまに俳句を送り付けてくるように。

・吟行のため単身いわき市へ。商店街のおもちゃ屋さんに七〇年代から八〇年代の玩具のデッドストックがあるのを発見し、バイオマンのお面を買う。「これ問屋に聞いてもなんなのかもうわかんなくなっちゃってたやつなんだけど……」「いやこれスーパー戦隊のバイオマンですよ、1984年の」 

・【世相】この頃、youtuberたちの間でアルミホイル玉が大ブームに。

六月

・外山一機氏と月二回の音声配信「ハイボク」を開始。そのうちネタがどんどん外山色濃厚に。

・「里」に丸四年連載した「俳句雑誌管見」の連載終了。最終回のタイトル「平成俳句を隘路にしないために」は二年くらい前から温めてあった。

・知り合い二人、知らんうちに付き合い始め、21日後に別れる。この頃の句会ではこの事件にまつわる挨拶句がたくさん出た。後世の俳句研究者は注目されたし。 

・【世相】この頃、「ふらんす堂通信」の社員さんのページにて、「地球滅亡!? 最後に何食べる?」という企画アンケに社員Pさんが「ペンギン」と回答。

七月

・中川智正の死刑執行。中川が拘置所内で書いていた俳句と文章を僕は読んでいた。中川の身近にいた江里氏に、中川の俳句の感想を知らせることがついに出来ないままになった。処刑ショーとも批判されたテレビの速報を、しかし食い入るように見てしまったこの日のおのれの性根について、釈然としない思いが残る。 

・瀬名杏香といわさきちひろ記念館へ。「あやめ」という絵がすごくよかった。ぼってりとした花弁が水彩で描かれる質感にため息が出る。

・マサラタウンのサトシ視点で高橋睦郎氏の家へ行く夢を見る。

・2012年からやっているツイッターのアカウントがなぜか凍結される。異議申し立ての結果30時間後に復活。たぶん松坂桃李の偽アカウントと認定されたのだろう。

・桐谷美玲結婚。堀北真希の時よりは傷が浅くて済む。

・小野不由美『屍鬼』読破。長かった……。

・【世相】欽ちゃん、ツイッターをはじめる。

八月

・「しばかぶれ」第二集発行。

・俳句甲子園オープン戦IN北海道に講師および審査員として参上。俳句甲子園札幌大会は大会成立条件を満たせず十数年ぶりに開催ナシ。もはや現地の顧問の努力だけで大会を維持できる状況ではなく、生徒たちの気持ちを考えると涙が出る。

・藤井薫『さらば松竹新喜劇』を読む。主として1960年代の松竹新喜劇で文芸部員として天外の近くにいた著者の、一種の暴露本なのだが、文字通りの舞台裏の哀歓を回顧する筆致は淡々としており、じーんと、感動的ですらある。今年一番印象的だった本。

・テレビ番組の収録のため松島へ。夏井さん、茂木さんとゆっくり話せたのがうれしい。佐藤廉君と夜中まで飲む。収録後、新幹線を遅らせて仙台で浅川&相馬氏と会う。相馬は僕が何年か前に弘前で講座を持ったときの受講生。曰く「もう一生会えないかと思いました」

・惣老師と逗子の高橋睦郎さん宅へ行き、睦郎さんの「歌人モノマネ」シリーズを堪能。

・バイトから帰ろうとしたらTXが止まって秋葉原駅は大混乱。見かねた凱が仕事終わりに時間つぶしに付き合ってくれる。

・中野晴行『「新宝島」の光と影』を読む。酒井七馬の伝記。晩年、昔ながらのショーをやってスベるくだりに胸が痛む。

・【世相】菅井きん逝去。

九月

・旭川在住の歌人茉城そうと飯を食う。会えてうれしい。

・岡本眸さん長逝。初学の頃から愛読してきたので残念でならない。『矢文』を読みながら、泣く。〈見えずじまひの岡本さんやわが哭く秋〉(翔)

・【世相】たばこ税上がる。

十月

・神田古本まつりで散財。松井利彦編『俳句辞典 近代』購入。これまで買った俳句辞典でいちばん便利。

・岸本さんに「今朝電話が来たのですが、魚目さん、亡くなったそうです」と聞かされ立ちつくす。 

・院の同期とのウチ飲みで酩酊、風来山人『放屁論』を朗読。

・【世相】貴乃花部屋消滅。 

十一月

・Mが俳句をやめるというので、卒業旅行と称して親しかった仲間で旅行に行く。おれは今年度ほとんど東京の会に顔を出していなかったので、当日になるまでドッキリか何かだと思っていた。

・某人、誕生日プレゼントに「好きなところへ日帰り旅行できる権利」をくれ、檜原村に行く。とある寺で雛僧と出会って話し相手になる。檀家さんのお出迎えが面倒で逃げて来たらしい。 

・骨董鑑定の動画を見ることにハマる。生まれ変わったら古物商になりたい。

・人生最大の腰痛に見舞われる。一時は何もできなかった。

・【世相】大阪万博の開催決まる。いよいよ『21世紀少年』みたいな感じになってくる。

十二月

・広島へ。「里」の句会にかこつけて、お世話になったM先生のお見舞い。あんぱんの従姉夫婦宅に二泊させてもらう。お宅の三歳児はおれのことを松坂桃李だと教えられていたので「とおり、あそぼ、あそぼ」とトイレまで付いてくる。松坂桃李にもプライバシーはあるのである。 

・仕事で宇都宮へ。筑波の吉川君と新潟の宇佐美さんが同行。宇佐美さんとは初めて会った。「銀化」に入ったらしい。餃子のあとの浅酌は忘れがたい。心霊体験の話で盛り上がる。

・都内某小学校で3コマにわたって俳句講座。最後のクラスでは給食を一緒に食べる。夏井いつきの知り合いだと言った途端に堀下先生大人気。

・映画『来る』見に行く。ヨネヤマママコや柴田理恵のすごい演技を見られてにこにこ。あとふつうに怖かった。 

・瀬名がクリスマスプレゼントに徳川夢声『五つの海』をくれる。とてもうれしい。

・自分へのクリスマスプレゼントに天本英世『天本君、吠える!』を購入。七年ほどまえに図書館で読んだのだが手元に置いておきたかったのである。

・【世相】コトバンクに精選日国が収録される。

よいお年を!

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