堀下年鑑2017

年も詰まってきたので今年の名場面を振り返っておこう。

1月

〇獅子文六『七時間半』(ちくま文庫、2015)を読む。新幹線が開通する以前、東京大阪間の行き来に7時間半掛かっていたころ、その特急車内の話。もはや死語となった固有名詞や慣用句の洪水に胸が熱くなり、昭和の大衆小説をもっと読まねばと決意し、ちくま文庫からなぜか次々に復刊される獅子文六の小説をいくつか読むも、バテて続かず。来年こそはもっと読みたい。

〇日テレ土曜21時枠のドラマ『スーパーサラリーマン左江内氏』の放送開始。藤子・F・不二雄の原作感はほぼなかったが、ハマってしまい、久しぶりにテレビドラマを定期視聴。

〇「里」の寒稽古で滋賀へ。二日で百句頑張って嘱目で書く。前年に弘前で一緒に仕事をした村越さんをはじめ、親しい人がたくさん参加してくれてうれしかった。

〇新井満涌初段がTwitterを始めたことをきっかけに囲碁の世界に興味を持ち、以後、「観る碁」(自分では打たないけど囲碁界をウォッチするファンのこと)になる。

〇岡本眸主宰「朝」が1月で終刊になることを知って愕然。一度だけ「朝」の句会にお邪魔したことがあり、もう岡本さんは引退なさった後だったが、お弟子さんたちからいい話をたくさん聞いた。その折にお目にかかった方々の顔を思い出す。

〇某所勉強会で、大正後期の「ホトトギス」の花形作家・西山泊雲の発表をする。もはや誰も話題にしない作家で、僕自身、まとめて読むのは初めてだったが、〈疾くゆるく露流れ居る木膚哉〉等、好きな句を発見できた。

2月

〇NHKラジオ第1「つぶやく575」の学生俳句会バトルに東大俳句会のメンバーとして出演。「義理チョコの数を日記に書いておく」という句を出すも、僕自身は東大生ではないということを言いそびれ、Twitterで聴取者に「東大生らしいキモさ」と書かれる。

〇大学一年生のときから関わってきた都内某女子高俳句同好会の最後の句会に顔を出す。彼女らの句が相変わらずすごいのでエモい気持ちになる。

3月

〇腰痛がひどくなり、現在まで慢性的にしんどい。

〇東大俳句会の合宿で千葉の養老へ。夜、宴会で岸本さんから爽波の〈稲雀ちつとも飛ばぬ広さかな〉という句を教わる。「広さかな」ってすごいよな。

〇6歳下の妹が中学卒業後の休みを利用して何日かうちに来て泊まる。アラシックだと思っていたらいつの間にか古典芸能ファンになっていて、浅草演芸ホールに二回も行く。四代目市馬の噺が聞けて喜ぶ妹にドン引き。

〇星合志保初段が出演する、六本木ニコファーレの囲碁・将棋・オセロイベントに行く。各ゲームのミックスルール対決。星合さん登場時、先攻後攻を決める振り駒を観客が務めることとなり、なけなしの勇気を振り絞って立候補。壇上に登って、星合さんの隣で振り駒をする。サイコー。

4月

〇数カ月前より通っていた近所のまぜそば屋さんで常連と認められ、毎回煮卵をオマケしてもらえるようになる。

〇ミッチーサッチー騒動について気になりだしてしまい、調べるも、けっきょくなんのことなのか把握できない。Twitterにそのことを書くとセキエツさんとヤマシタアヤノさんから「あたしゃ許さないよ!」と言われる。次第に頭の中がミッチーサッチー騒動でいっぱいになり、句会に〈誰も知らない十勝花子の老の春〉という句を出す。

〇NHK「学生俳句チャンピオン」の収録で松山の離島へ。「動きやすい靴を履いてきてください」と言われた時点で「あ、俳句はしないんだな」と察する。島の港にトライアスロンのポスターが貼ってあったのを見ていよいよその疑惑は深まる。結局、砂浜で屋台を引きながら猛ダッシュしたり、蜜柑畑で鈴木総史君とデートをしたり、大塚凱と二人でクルージングしたりする。

5月

〇地元の文学館で母校文芸部が特集され、出身作家ということで僕のブースもつくられる。ポートレートが展示されていたのだが、話に尾ひれがついたらしく、数か月後、田中亜美さんに「等身大パネルができたんだって?」と言われる。

〇不眠ぎみになり、毎日、家の向かいの畑の鶏が鳴くころに寝る、という生活をしばらく続ける。

〇1980年代の「俳句とエッセイ」(かつて牧羊社が出していた月刊総合誌)を通読し、当時の俳句マスメディアのアツさにドキドキする。80年から81年にかけての角川春樹・黒田杏子推しはアツすぎるぜ。

6月

〇仕事で凱と滋賀に行く。打ち合わせの前に二人で比叡山に登ったら、思ったよりハードな山で、遭難しかける。翌日、仕事終わりに京都に寄り、関西の学生の面々と飲む。

7月

〇某所某会、喫煙しているところを某蛇笏賞作家に見咎められ、「僕は小学校四年生の時にね、学校の講堂で一生分を吸いましたから」とスケールのでかいことを言われる。

8月

〇佐藤文香結婚パーティー。若之さんと二人で受け付けを務める。引き出物は文香さんの俳句が印字されたどら焼き。未刊の「しばかぶれ」第二集の句があったため、世にも珍しい「初出がどら焼き」の句が誕生してしまう。

〇金田咲子『平面』(ふらんす堂)が刊行される。約30年ぶりの第二句集なので大興奮。

◯佐藤文香編『天の川銀河発電所』(左右社)に入集。文香さんの編集もちびっとお手伝いしていたので感慨一入。なおこの年、文香さんが柏に住んでたので、ときたま柏に行って一緒に飲んだ。(この条は追記。本文章は「堀下翔略年譜」という、誰々に会ったとか、何処何処に行ったとか、何何に掲載されたとか、そういう動向を一々手控えているキモいメモを元に書いたのだが、掲載情報を一括で抜いたときにうっかりこれも省いてしまった)

〇青春18きっぷを使って二日がかりで松山へ。途中、岡山の黒岩邸に泊めてもらい、「俳句であそぼ」を撮影。200いいね!を獲得。

〇俳句甲子園、諸々の仕事で暗躍。三日間毎日、そのへんにいる人を捕まえて句会を実施。

〇俳句甲子園一日目、大街道を歩いていたら、女子小学生に「俳句チャンピオンですよね? 写真撮ってください」と話しかけられる。聞けば俳句をやっているわけではなく、ふつうにテレビで見ただけらしかったので動揺する。

(余談だが愛媛県内におけるNHK「学生俳句チャンピオン」の視聴率はすさまじいものらしく、一昨年も同様に、まったく俳句をやっていない大学生と知り合い、ついでにお茶までした)

〇小野不由美『残穢』(新潮文庫、2012)を読み、自分が子供のころから抱えていた、えたいのしれない恐怖感とまったく同じものがそこに書かれていることに驚く。

9月

〇母と二人で夕張・三笠へ。昭和後期から時が止まった感じにやられ、半月ほど鬱然とする。

〇シシドカフカが好きになるも、その直後、シシドカフカは髪をばっさり切ってしまい、元のほうがすきだったのに……となる。

〇TBS日曜19時のクイズ番組「東大王」にドはまり。頭のいい人たちが、むずかしい問題に秒で答えて、しかも回答のプロセスまで示してくれるという、近年まれにみるいいクイズ番組。僕の推しは鶴崎くん。

10月

〇学生俳句合宿の幹事をやる。紗希さんが幼い息子氏に「あれは枯田だよ~。ゴミがあるねえ。枯田の中に何かがあるってみんな俳句にするんだよ~」と教える姿を目撃し、その英才教育に衝撃を受ける。

〇柴田白葉女殺人事件について調べはじめる。蛇笏賞作家の白葉女が刑務所から出たばかりの男によって強盗殺人の禍に遇するというこの事件、当時の資料を漁ると、実は、ちょっと簡単には言えない背景があったことがわかり、これはいつかきちんと書かなければな、と思う。

〇仕事で富山へ。「里」同人の山西真理子氏とばったり会い(マジでばったり会った)、夜、たのしく話す。

11月

〇囲碁AI「AlphaGo Zero」の成果が発表される。棋譜を読み込まず、純粋に囲碁のルールのみをベースにしながら、40日で人智を超える領域に達したこのAIに衝撃を受ける。AIと人間との倫理的な関係をどう位置付けるか、早く考えないといけないと強く思う。

12月

〇仕事で徳島へ。風が寒すぎてやばかった。

〇映画「未成年だけどコドモじゃない」を見に行く。原作は未読。どう考えてもなんで登場したのか分からないキャラクターが何人かおり、きっと原作では掘り下げられているんだろうなあ、などと思う。

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よいお年を!

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