子どもの頃の思い出

1番古い記憶は、2歳から始まる。
理由は覚えていないが、母に怒られて、

「そんな子はうちの子じゃない、出ていきなさい!」

みたいなことを言われ、それなら出ていってやる、と家出をしようとしたのだ。

遠くに行くには電車に乗るしかない、と考えた私は、駅に向かって歩いていった。電車に乗ればなんとかなる、と思ったのだ。
悲しいとかそう言う感情は全くなく、ただひたすら憤慨していた。

結局、家から歩いて5分ほどのところで、こっそり様子を見ながら追いかけてきた母に保護されて帰宅した。
ほっとしたとかではなく、ただただ怒っていたのを覚えている。

後から母に聞くと、まさかほんとに出ていくとは思わなかったし、どうせすぐ戻ってくるだろうと思って、こっそり跡をつけたら、どこまでも歩いていくから慌ててしまったらしい。

なんて可愛いげのない2歳児。

それから、母は2度と出ていきなさい等とは言ってはいけない、と反省したらしいが、怒ると怖い人と言う記憶しかないのはなぜなんだろうか。

当時、自宅の玄関はガラスの引き戸だったのだが、母に常に注意されていた。

「ガラスは割れると危ない」

ある時ふと、そんなに危ないって言うけど、ガラスってそんなに簡単に割れるんだろうか、と考えた私は、何を思ったのか、石を拾い、玄関めがけて投げ付けた。

当然、ガラスは激しい音をたてて、粉々に割れ、あまりのことに驚いて、ガラスって本当に割れるんだな、と感心するのと同時に、なんてことをしてしまったんだ、母に怒られる、と、怯えて、おろおろしていると、音を聞き付けた母は玄関を見て、

「何でこんなことをしたの?」

と静かに尋ね、私は、ビクビクしながら

「ガラスは本当に割れるのかと思って」

と答えた。

すると母は、砕けたガラスを見て、

「本当に割れるってわかったでしょ?危ないから早く片付けなきゃね。こっち来ちゃダメだよ。修理も頼まなくちゃ 」

と、まるで怒ることもなく、ガラスの破片を片付け始めた。

なぜその時、母が怒らなかったのかわからないけれど、普通に怒られるよりも、自分がしたことは悪いことだった、と子ども心に染み入って、それからもう2度とガラスを割ろうなどとは思わなかったし、引き戸の割れたガラスのあとに貼られた新聞紙が、新しいガラスになるまで、申し訳ない気持ちで一杯だったことを覚えている。

よく怒る怖い母だったからこそ、怒られないことが逆に心に染みたのかもしれない。

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