とあるプロのはなし。

彼女はある日、昼休みのオフィスにやって来た。

「こんにちは。今度この地区の担当になりました。今保険て入ってらっしゃいますか?」

生命保険の飛び込みセールスだ。

今このオフィスを担当している他社のセールスレディはかなりの年輩の女性で、それに引き換え彼女は、新卒で初々しく、派手目のメイクで目を引いた。

彼女はその日から頻繁に昼休みのオフィスを訪ねてくるようになり、明るい笑顔とわかりやすいプランの説明で、日に日に契約者を増やしていった。
元からいた、古参セールスレディの顧客をどんどん自分の顧客に変えていくものだから、たまったものではなかっただろう。

ある日とうとう、古くからの顧客もほとんど全て奪われ、怒り心頭で、解約した顧客に向かって、

「この裏切り者!あの泥棒ネコめ!」

と捨て台詞を残し、撤退していった。

端から見ていても、確かに非情だな、と思ったけれど、古参セールスレディの、商品を売らんかなと言う精神が透けて見える対応よりは、新人の彼女の顧客に真摯に向かい合ったプランニングでのセールスは、真っ当であり、多くの顧客が彼女の方の契約に乗り換えたのも頷けるのだった。

そうこうするうちに、私もそんな彼女の契約に乗り換えた。将来の生活設計も含め、きちんとしたプランを提示され納得したからだ。

彼女のすごいところは、顧客のライフイベントの把握と、それをきちんとフォローし、細く長く繋がりを継続するところだ。
都度都度プランを見直し、セールスチャンスは逃さない。

彼女こそ、プロのセールスレディだと思う。

春から社会人になる息子はすでにロックオンされている。

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