なにか とれ・ふく──最後の命令 ポートピア連続殺人事件(2)

警告!
(この文章には、真犯人の名前や、ラストの重要な演出など、完全なネタバレが含まれています。
 「ポートピア連続殺人事件」をクリアしたことがない人はご注意ください)
 ポートピア連続殺人事件(ファミコン版:1985/11/29)エニックス

「ポートピア連続殺人事件」に登場する主人公の部下の刑事「ヤス」が偉大な発明であることは前回述べた。
「ポートピア」では、コマンドは「たたけ」「そうさ やめろ」など命令形で表現されており、ヤスに対する命令という形をとっている。

たとえば、取調室に容疑者のひとりである「こみや」という老人がいるという状況がある。
そのとき、「なにか とれ」「ふく」とヤスに命令してみよう。
すると、次のような文章が表示される。

  <なにか とれ>
  ヤス「なにを とりますか?
  ボス「ふく
  こみや「ひー、 やめてくだされ!
  ヤス「ぬがして しらべてみましたが
     あやしいものは
     みにつけて いませんでした。

その場にいるのは、ボス(主人公)と、部下のヤス、そして容疑者の こみやである。
ボスはヤスに命令する。「服を取れ」と。
「誰の(服)」という選択をする必要はない。なぜなら、画面に表示されているのは こみやだけであり、その場には こみやの他にはボスとヤスしかいないからだ。
これは、もちろん「(ヤスよ、こみやの)服を取れ」という意味に決まっている。
取調室に凶器を隠し持ったまま来る容疑者もいないと思うが、こうして怪しい相手の身体検査をするわけだ。

では、取調室に他に誰もいないときはどうだろう。
もちろん、ボスとヤスは常に行動を伴にしているので、主人公であるボスはヤスと対面していることになる。

  <なにか とれ>
  ヤス「なにを とりますか?
  ボス「ふく
  ヤス「ぼくに ふくを ぬげというんですか?
     ボス、 じょうだんは やめてくださいよ。


おわかりいただけただろうか?
他に誰もいないのにヤスに命令したのだから、「(ヤスよ、)服を取れ」という意味になるのである。
違いは、こみやのような第三者がいるかどうかという点だけなのだが、まったく同じコマンドで、
脱がせる者ヤスが、脱がせられる者に変化している。
これは、高度な言語的トリックであるといってよいだろう。
しかも、特筆すべきは、これはこういったコマンド選択型ゲーム以外のメディアでは表現できないということだ。

これを読んでいる方は、ポートピアをクリアしたことがある人であるから、ヤスの服を脱がせた経験をお持ちであろう。
これ以上の説明は蛇足だが、あえて結論を述べる。

犯人は、肩に蝶の形のアザがある男である(厳密には物的証拠はないのだが)。その男を見つけ、服を脱がせてアザを確認すればよい。
ゲームクリアのためのすべての証拠、すべての情報が集まったとき、
他に誰もいない取調室でボスは命令する。

  <なにか とれ>
  ヤス「なにを とりますか?
  ボス「ふく
  ヤス「ぼくに ぬげというのですか?
     ボスは まさか……。

  <なにか とれ>
  ヤス「なにを とりますか?
  ボス「ふく
  ヤス「…………。

  <なにか とれ>
  ヤス「なにを とりますか?
  ボス「ふく
  ヤス「わ、 わかりました…。
  ヤス「ボス、 みごとな そうさでした。
     ぼくが しんせきに もらわれて
     いった ふみえのあにです。
  ヤス「こうぞうと かわむらを ころしたのも
     たしかに この ぼく です。
  ヤス「りょうしんを じさつに おいこんだ
     あの ふたりを ゆるせなかったのです。

常に行動を伴にする部下の刑事が真犯人だった。これは推理アドベンチャーゲームのなかでもっとも衝撃的なラストであるといっていいだろう。
それを、ファミコン最初の推理アドベンチャーゲームで使ってしまった。
その堀井雄二のものすごさは、クリアした多くの人が感じているところだろう。

しかし、最後のコマンドが、基本コマンドに最初から最後まで存在する「たいほ しろ」でも「そうさ やめろ」でもなく、
「ヤスに対する命令」というシステムを利用した「なにか とれ・ふく」というものだったことをあなたは覚えていただろうか。

犯人が判明し、普通に逮捕して終わりというのではなく、最後の最後でコマンド(命令)というゲームシステムを最大限に利用した仕掛けで「ポートピア」を締めくくった堀井雄二。
彼は間違いなく、天才である。

(なお、言葉のトリックを、ゲームならではというわけではなく小説やドラマなど他メディアでも利用されている表現方法で使用した例として、「ファミコン探偵倶楽部II」がある。これは別の機会に述べる)


(1999/5/25 綾茂勝太郎)

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