妖怪絵巻〜弾丸兎〜其の一

妖怪絵巻〜弾丸兎〜其の一

むかぁし昔、だけど、実は昨日のことかもしれないお話。

世の人間達は笑うことを忘れ、生きることに必死になっていた。
そんなある日、とある妖怪一派が人間達の前に現れこう言った。

「おぬしらは何故そんな暗い顔をしている?」

妖怪達は皆、笑っていた。
艶やかに笑う妖怪達に人間らは首を傾げた。
そして人間は問う。

「じゃあ聞くが、楽しくもないのにお前ら妖怪は何故笑う?」

そう口を開いた人間のすぐ目の前に目にも止まらない早さで一人の妖怪が立ちはだかり言った。

「同じく生を得たなら笑わないと損。楽しく生きましょう人間様、さぁ妖怪の世界へようこそ。」

とある国、とある場所に「其処」は存在した。
一風変わった妖怪一派が夜な夜な百鬼夜行を行っては人々の笑を集めていると言う噂が、人間界にも届いていた。

老若男女、全ての人を愛し、それらを惹き付ける魅力を備え、天真爛漫に毒を吐く、自由気ままなその生き様は一度に満開の花を咲かせては未練なく散り行く桜そのもの、妖しの笑顔に満開の愛、桜の精霊、夏衣。


二つの魂は深海に沈み、その美しく広い海で生を得ては地上に憧れる。半陰陽の双子の人魚。
疑心暗鬼の海で暮らし、自由な地上への強い憧れを持つ、海底を舞うことしか知らず、愛する事を武器に人を海へと誑し込む、双子の人魚、蓮。
変わってこちらは疑心暗鬼の海を愛し、自由な地上を嫌う、天性の甘い声色は水を伝い海中へ広がる、その美しい歌を聴いた全ての者を海へと誘う、双子の人魚、瑠唯。


神秘に満ちた美しい顔をもち、その全てを隠すように心を消したカラクリ人形、仲間への忠誠を誓い生を捧げる幻惑の龍の一族の生き残り、近頃、幼少の男子を見ると消したはずの胸が高鳴る、龍神、水兎。

この国の全ての妖怪を束ね、その頂点に君臨する妖界の女王。
不思議な力で全ての人の心の隙間に入り込んでは魅了する。時に幼く、時に熟し、天邪鬼な天は鬼か神か、気高い背中に見える歪む闘志、妖怪総大将、有由來。


妖怪一派は「其処」に存在した。

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