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鈴木財務大臣の「納税は議員個人の判断」は何を意味しているか?

はじめに

 確定申告時期ですね!税理士の繁忙期です。確定申告業務をしているとお客様から「国会議員は納税しなくていいのに、庶民は納税しないといけないのねぇ」なんて言葉をよく聞きます。 

 話題の裏金問題です。自民党の一部の国会議員が裏金(パーティ券のキックバック)を受けており、収支報告書に記載していなかったとされる問題です。表に出ないお金であり、課税もされていないのではないか?という疑惑に対する憤りから出る言葉でしょう。

 庶民の一人として、私も説明責任を果たしてほしいと感じる問題です。そんな中で鈴木財務大臣の発言がSNSで話題になっているのを発見しました。

 それはなんと、「納税は議員個人の判断」によるという趣旨の発言でした。そしてSNSでは、「納税は自由に決めていい」「私も自分の判断で納税はやめる」「確定申告ボイコット」などの発言が飛び交っていました。「自由民主党じゃなくて、自由納税党だな!」は不覚にも笑いました。

この記事の目的

 鈴木大臣の発言は、「納税は個人の判断で決めてよい」という趣旨ではないと皆さんを説得してみようという目的で記事を書きました。

 鈴木財務大臣の擁護をしたいわけではありません。しかし、日本の税制を掌っている財務省のトップが、「納税は個人の自由!」なんて意味不明なことを言うとは信じられない(信じたくない)のです。

 よって、この記事内では、最大限好意的に発言を解釈してみようと思います。国会議員の裏金問題や、今回の鈴木大臣の発言が問題ないと考えているわけではありません。念のため。

まずは鈴木財務大臣の発言を確認

 「納税は議員個人の判断」という言葉が独り歩きしていますが、鈴木大臣の発言を確認しましょう。映像から確認したところこんな感じです。

「使い残しがある雑所得で、控除で引き切れない部分があるという判断のなかで納税をするという方が可能性としてはあると思う。疑義が持たれた政治家が政治責任を果たす、そういう観点から判断されるべきものであると思う。」

国会での鈴木財務大臣の発言

いくつかの記事では前半がカットされている

 いくつかのネット記事や、テレビ報道を確認したところ「使い残しがある雑所得で、控除で引ききれない部分があるという判断のなかで」の部分がカットされていることが確認できました。

 カットした理由は、小難しくてよくわからない部分だから、だと推測します。しかし、この文章にも「判断」という文言がある点が私は気になりました。

「判断」とは何を意味しているのか?

 発言の中で2度出てきた「判断」は具体的には何を意味しているのでしょうか?本当に、自由に判断する、という意味で用いられたのでしょうか?

申告納税制度の確認

 小難しい言葉ですが、申告納税制度を確認しましょう。日本の所得税は申告納税制度を採用しています。申告納税制度とは、自分の税金は自分で計算するということです。それを税務署に申告して納税をするのです。

 いや、自分で計算してないんですけど。。という人が多数派だと思います。これはサラリーマンなどの給与所得者は、源泉徴収や年末調整という仕組みによって実質自分で計算をする必要がないためです。制度上は例外であって、原則はやはり申告納税制度なのです。

自分で計算することの難しさ

 さて、自分で税額を計算するのはかなり大変です(だから税理士という職業が成り立つともいえる)。計算する以上、間違いない数字が客観的に決まる、と思う方がいるかもしれません。しかし実際にはそうはいかないことが多いのです。

 確かに理論上は客観的に決まるのかもしれません。しかし、法律解釈の余地がある場合など悩ましい事例は数多く出てきます。

 例えば、接待での飲食費を経費(所得税では必要経費と呼ぶ)にしていいか?をイメージしてください。仕事のためとも考えられますし(経費性あり)、実際には仲のいい取引先と楽しく食事をしただけ(プライベートな支出)とも考えられるかもしれません。

 さて、そのような場合はどうするのでしょうか?そうです、判断するしかありません。どのような処理が適切か、それを判断していくのです。それは各納税者が実施することです(その判断のお手伝いをするのが税理士とも言える)。

改めて鈴木財務大臣の発言を確認

「使い残しがある雑所得で、控除で引き切れない部分があるという判断のなかで納税をするという方が可能性としてはあると思う。疑義が持たれた政治家が政治責任を果たす、そういう観点から判断されるべきものであると思う。」

国会での鈴木財務大臣の発言

税額計算の方法を確認

「使い残しがある雑所得で、控除で引き切れない部分があるという判断」とはどういう意味か?

 難しい話になるので、かなり簡略化します。税金の計算は、収入から経費を引いて利益を計算します。その利益に税率をかけて税額が計算できます。利益があれば当然税金が発生ことになります。

「使い残しがある雑所得で控除で引き切れない部分」とは、収入から経費を全部引いても残った利益という意味です。

発言の前半を確認

 ここまでの前提知識を入れたうえで前半を確認します。

「使い残しがある雑所得で、控除で引き切れない部分があるという判断のなかで納税をするという方が可能性としてはあると思う。」 

 この発言の趣旨は、「申告納税制度を前提として、自分で経費性を判断し、利益が残る人がいる可能性はある(=税金が出るので納税をする)。」となります。

発言の後半は?

 では、問題の後半部分です。「疑義が持たれた政治家が政治責任を果たす、そういう観点から判断されるべきものであると思う。」

 この発言はどのようにとらえたらよいのでしょうか?ここでの「判断」は、前半の「判断」を補足していると考えてみます。

 利益を計算するうえでの判断は、政治家が政治責任を果たす観点から行われるべきである、との趣旨です。

 政治家は民衆の代表ですから高い倫理観を求められるはずです。よって、厳しい判断基準をもって税額計算をすべきであるという意味です。

発言の解釈のまとめ

 「使い残しがある雑所得で、控除で引き切れない部分があるという判断のなかで納税をするという方が可能性としてはあると思う。疑義が持たれた政治家が政治責任を果たす、そういう観点から判断されるべきものであると思う。」

好意的に解釈してみると、こんな感じでしょう。

 「税額計算をする際には判断の余地がある。計算をしたときに、利益(所得)が残る議員がいる可能性はある。税額計算の判断は、政治家の政治責任を果たすという観点から厳しい判断基準を採用すべきである。」 

結論

 最後まで読んでいただいてありがとうございます。いかがでしょうか?鈴木大臣の発言の本当の意図は分かりません。しかし、税理士としてはこの記事でご紹介したような解釈を意図したものと信じたいですね。

 いずれにしても、私達は適切な申告納税を心がけましょう!では確定申告の業務に戻りまーす。

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