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ヤクらの草子

春はアゲぽよ。やうやうさがりゆく打率、少し上がりて、紫だちたる唇の、細くたなびきたる。

この景色が、野球場の中で1番好きな角度

2023年開幕戦

ついに声出し応援が解禁された。
出自とは恐ろしいもので、外野応援原理主義者に育てられた私は、グループ観戦以外では、神宮ライトスタンドで応燕(応援)している。

だからこそ、従来より若干赤みを抑えた、けれどほば真紅で背番号が見えづらいと評判のユニを間近に見て、そしてレフトスタンドのスクワット応援を見ては、声出し応援復活!を実感した。

名物!スクワット応援!侍ジャパンの時だけ合法で出来る笑

見ている方が肝を冷やす危なっかしいセンター・濱田と、これまた急造ライト・内山のヤンスワ(※1)外野コンビ。加えて、41歳にして開幕スタメンを勝ち取ったシニスワ・青木宣親。(※2)。
小川なら外野に飛んでくる球も少ないだろうという信頼感なのか、打ち勝ちゃええんヤ打線なのか。
私は後者だなと思いながらスタメン表を眺めていた。

そして、1回裏に鳴り響いた「今ここから」の大声援。

さあ走り出そう 勝利目指して 終わりなき夢の先へ 導いてくれ
どんな辛い時も 俺たちがそばにいる だから手を取り闘おう 今ここから

「今ここから」東京ヤクルトスワローズ チャンステーマ マルチテーマD

14連敗目がほぼ確定していた2019年5月の広島戦8回裏。ヤケになったように応援団がリードした場面に聞いても泣かなかったけど、今日くらいはいいよね。
少し目を潤ませながら若燕たちの打席を見守る。

先発・小川から鉄壁のブルペン陣がつないで4-0の快勝。
そしてまさかの広島戦3連勝で、なにもかもがうまく行っているように見えた春の夜。

キャプテンがいないということ

そのヤンスワたちの打率が、キープされることはもちろんなかった。相手チームだって対策をしてくるのがプロ野球だ。
日に日に下がっていくヤンスワたちの打率。市外局番に近づく選手さえ出てくる。
開幕以来打てていなかった村神様の打率が少しだけ上がり始めた矢先、キャプテン3年目の山田哲人が離脱した。

山田哲人がキャプテン向きだと思っていたヤクルトファンが、かつてどれだけいただろうか。
96敗しても16連敗しても、淡々と成績を残すタイプの選手だ。
決して選手を鼓舞してチームをまとめるような性格ではないと思う。口数も多いようには見えないし、数えきれないほど立って来たヒーローインタビューのステージだって、お世辞にも話が上手とは言えない。

けれど、立場が彼をキャプテンらしく振る舞わせている。周りの選手にも支えてもらいながら、どんどん彼はキャプテンになっていっている。

いつしか、ピンチの場面には自らマウンドへ駆け寄るようになっていた。
何を伝えているのか聞くことは出来ないけれど、その一言で切り抜けた場面は、これも数えきれないほどにある。

その、山田哲人がいない春。

2023年は、まだあけぼの

外国人助っ人が、テーピングを貼り合わせたであろう急造キャプテンマークのCを胸元に付け、円陣を組んでチームをまとめようとしている。
先発が投げきれない時でも、ブルペン陣が唇が紫色に染めるほど緊迫する場面を細々とカバーしている。
遠征続きで、「(中継ぎ陣に)すでに疲れが見え始めている」と監督はボヤくが、チーム全体での帰還まではなんとか今の状態を保持しようと踏ん張ってくれている。

春盛りの神宮に、山田哲人がいない。
高津臣吾監督も10日で戻ると明言しない。
けれど、今シーズンこそと約束した4回目のトリプルスリーに向けて、ファンはあなたの帰還を待ってます。
それまで私は、外野スタンドで歌でも歌いながらあなたの帰還を待っています。


春は名のみの(バットが空を切る)風の寒さヤ
(打率が)谷の若燕の歌は覚えど
ときにあらずと (外野フェンス)越えも打てず
ときにあらずと (応燕の)声もたてず

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参考原典:
枕草子 (作者:清少納言) 第一段
早春賦 (吉丸一昌 作詞、中田章 作曲)

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※1:ヤングスワローズの略。10代〜20代前半(村上を除く)の若手選手を指す。
※2:シニアスワローズの略。青木と石川らベテラン陣を指す、ヤングスワローズへの対義語。

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