七月某日。体調を崩す。少し前から喉に違和感を覚え、うっすら嫌な予感はしていたが朝起きると同時にそれは確信となって時すでに遅し。喉が痛い。唾を飲むたび赤ん坊が始めて炭酸飲料を飲んだときと同じ顔になる。そして発熱している。いけない。週明けにはラジオの収録がある。はやく治さなくては。昨年名古屋から上京してきたばかりのため、掛かり付けというのにはまだ心許ないいつもの病院に電話。喉が痛くて話しにくい。どうしても藤岡弘、さんみたいな話し方になってしまう。名前を聞かれたが今日ばかりは自分の名前の最後に「、」をつけたい気持ちになる。病院は混み合っていて診察は午後になるとのこと。万が一のときのためにラジオのスタッフに現状報告を済ませ、ひとまず二度寝。

診察時間の30分前に目覚ましをかけたが、その20分前には目が覚めた。熱はさらに上がっている。しんどい体を引きずっていざ病院へ。結局コロナではなくて扁桃炎とのことだった。名前に桃が入っていてなんとも可愛いが、その実非常にしんどい。帰宅後、幸いにも食欲はあったので昨日の残りのカレーを食べる。しかし、喉が痛すぎて飲み込むだけで涙が出る。2口でギブアップ。食い意地の張っているでお馴染みの俺が、お腹は空いているのに目の前のカレーを自ら諦めるという世界線があっただなんて。処方された薬を飲んでふて寝。しかし空腹でまた目を覚ます。もうすっかり外は暗くなっていたけれど、近くのドラッグストアにプリンを買いに行った。さすがにプリンなら食べられるはず。プリンを2つだけ買って帰る。
マンションの廊下の蛍光灯に向かってカナブンがぐいんぐいんと旋回している。それをスーパーマリオの要領で避けながら部屋に入る。日常に潜むダンジョン。俺はいったい何をやっているんだろう。少しだけ悲しい気持ちになりながら買ってきたプリンを一つは冷蔵庫に入れて、一つを食べる。まさかの激痛。プリンもダメなのかよ。それでも生きなくてはならないので、小さなプリンを何度も何度も噛んで食べた。




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