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有益な情報にはもううんざり

普段はライターという身分で生きているので、できるだけ有益な情報を可能な限りわかりやすく発信するように心がけている。反面、私生活の僕は有益な情報にはうんざりしている。だから無益なブログを好んで読んでいる。

少し詳しく書こう。例えば文章構成のメソッドとか、おいしい紅茶の淹れ方とか、1Kを広く使うための収納術とか、そういう役に立ちそうな情報に触れると途端にパニックになる。「ああ!!頭に入れておかないと!!!覚えておかないと!!頭にメモしておかないと!!」と、別に逃げるわけでもない情報を前に焦りを感じてしまう。人間、好んで焦りたい奴はいない。なので有益な情報はできるだけ避ける。

そうすると行き着くのが先に挙げた無益な情報である。好きで読んでいるのは「初老の男性が淡々とその日のご飯をあげ続けるブログ」。まるでおいしそうでもないし安くもないしそもそもレシピがあるわけでもない。僕の人生には一切関係がない。なので安心して毎日読める。

他にもホームレスが2ヶ月に一度くらいの頻度でネットカフェを利用して更新するブログが面白かった。このブログは発見した時点で既に更新が止まっていた。過去記事の内容はとにかく現実感に満ち満ちていた。ホームレスの日常が綴られた最新記事からは、何の予兆も感じとることができなかった。しかし更新は確かに止まっていた。

たまに「行間を読ませる小説」みたいなのが評価されるが、あのとき、僕は間違いなく「止まった更新」を読まされていた。この10年で最も文学的な体験だったと言って差し支えないだろう。

思えば僕が好んで読む小説なんて、人生において全く無益なのかもしれない。宮部みゆきが描いた冒険活劇が、日々の仕事の何に役に立つのだろう。太宰治が語るユーモアでは、紅茶は沸かない。吉本ばななが綴る日常を覗いても、部屋は片付かない。

世の中には無益であればあるほど心惹かれる人種が存在するのだ。僕はそういう人たちのためにnoteを書いているので、「何だこの記事!何の価値もない!ここまで読んだ時間返せよ!」と言われることにカタルシスを得るのです。

とは言っても全く無意味だと数少ない読者が少しずつ減っていく気がするので、今日から末尾に有益な情報をひとつだけ載せることにします。


今日の有益情報

キリンは、ごく稀にライオンを蹴り殺す。



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