見出し画像

「今夜はカレーよ」

昔から、母のカレーが大好きだった。

小さい頃から母の料理以外を食べる機会なんてほとんどなかったので大きくなってから気付いたけど、私の母は料理が得意だ。大学生になって実家を出てから母の料理が世間一般的に見ても美味しかったんだと知った。

カレーは月に1回ぐらい朝から仕込んで作ってくれる。
昼頃に『今日の晩ご飯何にしようかなぁ』と母が言うので、カレーが良いと私が言うと、いつも決まって『今からじゃ無理よ』と言う。母のカレーの調理はその日の朝から始まる。朝の家事が一通り終わるとジャガイモやニンジン、タマネギを食べやすい大きさに切って水に浸けておく。昼過ぎになったらそれらの野菜と肉を鍋に入れ、ある程度炒めると水を入れてふつふつと煮込む。煮立ってきたらカレーのルーを数種類入れる。母こだわりのルーの配合があるらしい。どこのメーカーの何辛かは私も知らない。スパイスや香辛料を特別にこだわっているわけでは全くない。ルーを入れてから夕食の時間まで数回に分けて何時間もぐつぐつと煮込む。食べる頃にはまろやかでちょうどいい辛さのカレーの出来上がりだ。

昔、テレビで娘が母の効きカレーをする番組を見た。自分なら絶対当てられるだろうなぁと幼心に思っていたのをよく覚えている。なんて考えていたら母のカレーが食べたくなってきた。学校から帰ってきたらカレーの匂いがする玄関を開けるあのワクワクが、愛おしく思い出される。

小学生の頃に読んだはやみねかおるさんの本で、パスワードの合言葉が「今夜はカレーよ」だったのを思い出した。今まで聞いた中でいちばんステキなパスワードだったな。今夜はばあちゃんのカレーだ。早く帰ろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?