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初めての沖縄一人旅

見えてきた。沖縄の青い海が。飛行機の窓の小ささは、もっと海を見渡したいと感じさせる。また、沖縄に来られたんだ。その嬉しさが込み上げてくる。

前回沖縄を訪れたのは、大学の卒業旅行。4年間一緒に過ごしたサークルの仲間と、ドライブしたり観光地を巡ったり。とにかく楽しかった。「旅行ってこんなに楽しいんだ。沖縄ってなんて素敵なところなんだろう」。卒業旅行をきっかけに、旅行と沖縄の虜になった。

それまでの私といえば、スーツケースすら持っていなくて、旅行には全然興味がなかった。旅行といえば、東京から実家の静岡に帰省することくらい。

今ではお気に入りのスーツケースを買って、夢見た沖縄の一人旅に来ている。社会人は想像していたよりも忙しくて、念願の一人旅をするまでに2年かかってしまったけれど、やっと沖縄に来ることができた。

前回沖縄に来たときに、「次は絶対に一人で沖縄に来よう」と決めた。なぜだかわからないけれど、沖縄の海を一人でただ眺めてみたいと思ったんだった。そんなことを思い出す。

機内アナウンスで、現在の那覇の気温が伝えられる。正確には覚えてないけれど、確か35度くらいだったはずだ。真夏のちょうどお昼頃。飛行機から降りてすぐにムンっというじめっとした暑さを感じた。初めての夏の沖縄。東京の空気より、もっと空気中の水分を感じる、べっとりとした暑さ。

到着口を出ると、「めんそーれ」の看板が頭上にあった。沖縄の方言で「ようこそ」という意味。きっと友人と一緒だったら、看板と写真撮ろうよ!となるのだけど、一人だったから看板だけを手早くカメラに収めた。

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空港を出て、レンタカー屋さんで車を借りる。今回は誰にも頼れないから自分で運転するしかない。でもずっとペーパードライバーだったから、運転に自信がない。でもやるしかない。とりあえず目星をつけていた沖縄そば屋を目的地として、カーナビに設定する。空港から15分くらいだ。とにかく行ってみよう。

到着したのは「いしぐふー」という沖縄そば屋さん。「沖縄そばには元は卵焼きが乗っていたんですよ」と店の人が教えてくれた。あっさりとしたスープに、コシの強い麺が絡まる。一口食べて、初めての一人旅の緊張感を解いてくれるような優しさを感じた。教えてもらった卵焼きも、意外とスープと合って、おいしかった。食事をしていると、誰かと一緒に味の感想を言い合えることの大切さに気づく。隣のテーブルでは、仲良しの友達と旅行に来たという感じの人たちが、楽しそうに会話しながら沖縄そばをすすっていた。少しうらやましい。

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そばも食べ終わったから、次の目的地を決めて店を出なくては。細かく計画を立ててないから、直感が働いたところに行くことにする。どこに行きたいだろう……?そうだ、友人がおすすめしていた斎場御嶽(せーふぁうたき)に行ってみよう。ここから少し遠そうだけど、運転も慣れないと。

車のエンジンをかける。まだ運転は緊張するけれど、夏の沖縄に来たんだから沖縄らしい曲を流してドライブを楽しもう。かりゆし58のアンマーでも流そうか。というか、本当に沖縄には国道58号線が通っているんだ、とナビを見ながら独り言。沖縄だから「58=ゴーヤ」の番号にしたのか?それとも偶然なのか……?一人だけの車内。いくら大声で歌っても大丈夫。

初めての斎場御嶽は、夏なのにひんやりしていて、静かな場所だった。琉球王国を作った神様が作った聖地と言われている。斎場御嶽の有名な三角岩。こんな大きな岩が自然とできて、そのまま残っていることが不思議だった。三角岩を抜けると、海と「久高島」という島が見えた。この場所から昔の人々は久高島を拝んでいたそうだ。

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調べてみると、久高島には船で行けることがわかった。よし、明日は久高島に行ってみよう。神様って本当にいるのかわからないけれど、神様から久高島に呼ばれているような、そんな気がした。

那覇市内に戻ってきて、夕ご飯を食べるため居酒屋に入る。たまたま見つけたお店だったが、私が一人なことに気づいた店員のおじさんが気さくに話しかけてくれた。「60度の泡盛あるけど、飲んでみる?」ここまでアルコール度数の高いお酒は飲んだことないな、と思いつついただく。鼻に抜けていくアルコールがすごい。耳の後ろあたりがカーッと熱くなった。ゴーヤのピクルスなどの料理も美味しかったことと、店員の方との会話も弾んで楽しい沖縄の初夜となった。


2日目の朝、久高島に向かう。久高島は沖縄本島の安座真港から高速船で約15分。直径5kmの小さな島は、自転車で巡ることができた。久高島の観光名所として有名なカベール岬までに行く道にはなにもない。商店も人家すらなく、両側に自然があるだけだ。もしここで自転車が壊れたら、一巻の終わりなのだなと思う。さっきすれ違った人たちと連絡先を交換するべきだったのか……などと不安が襲う。前からも後ろからも人が来る気配がない。小さい久高島よりも、自分はもっともっと小さいのだと思った。

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神が降り立ったと言われているカベール岬。一体これまでに、どのくらいの人がここで祈りを捧げたのだろう。沖縄とは縁遠いと勝手に思っていたが、自分の先祖に繋がる人もいたのかもしれない。10代さかのぼると、約2000人がご先祖様となるそうだ。自分の命は両親から授けられたものだけれど、命の道が脈々と繋がってきたんだななどと、考えてしまった。

無事本島に戻ってきた。沖縄といえば泡盛。泡盛がたくさん楽しめるお店「カラカラとちぶぐゎ~」を訪れた。ニコニコと優しそうな店主が、泡波をすすめてくれた。日本最南端の波照間島で作られる、幻の泡盛「泡波」。波照間島もいつか行ってみたい。泡波はアルコール30度。慣れない運転などで疲れた心身に、強いアルコールが染み渡る。

ここでも店員のおじさんと話すことになり、どこに観光してきたかと尋ねられた。斎場御嶽や久高島に行きました。沖縄はどこで見る海も綺麗でいいですねと話すと、「どうせ見るなら北部か離島の海がいいよ」と教えてくれた。なんでも、海の透明度や青さが那覇などの南部などとは段違いなのだそうだ。

お酒を飲みながら明日のことを考える。一人旅はなんでも自由だ。でも自分が決めない限りは何も起こらないし、始まらない。誰かが何かを言ってくれるわけでもない。

そうだ、前になにかで見た座間味島のビーチへ明日は行ってみよう。とにかく海が綺麗だと聞いたことがある。ネットの検索に出てきた画像を見るだけでも、海がとても青いことがわかる。これ、実際に見たらどう感じるんだろう。ワクワクしてきた。

3日目、座間味島へ向かう。座間味島は那覇の泊港から高速船で約50分。昨日の久高島と比べると、沖縄本島からやや遠い離島だ。船だけは酔ってしまう私にとって、50分の乗船は不安だったが思っていたよりも平気だった。

港に降り立つと、本島よりもさらにゆったりとした雰囲気を感じた。もちろんコンビニなどは見当たらず、港から短い信号を渡ったところに小さな商店があっただけだ。

座間味島では原付を借りた。目指すは古座間味ビーチ。自転車でも行けるそうだが、ビーチまでの道はかなり傾斜のきつい坂があるらしく、原付や車での移動がおすすめとネットに書かれていた。原付だとすぐにビーチに着いたが、確かに自転車や徒歩ではかなり過酷な坂道だった。

昨日ネットで見た青く澄んだ古座間味ビーチがいよいよ近づいてきた。ビーチに繋がるウッドデッキを進むと、海が見えてきた。

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あまりの綺麗さに驚いて、口が開いていたかもしれない。こんなに青い海は見たことがなかった。昨日まで見ていた沖縄のあらゆる場所の海も綺麗だったけれど、座間味島の海は格別だった。

小さいときによく食べたソーダゼリーの水色。自然の色とは思えないほどの青さ。こんな海があったんだ。まるで何か海の色に加工でもしたのではないかと思うほどの美しさだった。

白い砂浜にシートをひき、ぼーっと海を眺める。目を閉じると海の動きが音で感じられた。穏やかだけれど、優しい波音。目を開くと青さに目を奪われて、波音は聞こえてこなかった。

古座間味の海を見ていたら、自分がいかにちっぽけで、悩んでいることなんてどうでもいいんだよと海が言ってくれているように感じた。日が暮れるまで海を眺めながら、読書したり昼寝をしたりして古座間味ビーチを楽しんだ。一人きりの贅沢な時間だった。

高速船に乗って、本島に戻る。沖縄一人旅最後の夜だ。今日はホテルの人に勧められた居酒屋に行ってみることにした。カウンターでお酒を飲んでいると、また店員さんが話しかけてきた。

東京から来たんです、と話すと、「一度行ってみたいなあ。ハチ公前で待ち合わせっていうのをしてみたいです」と店員さんはちょっと照れ臭そうに笑った。これまでの人生で一度も沖縄を出たことがないのだそう。「ゆいレールができるまで電車も乗ったことがなかったからねぇ〜」と彼は言う。確かに地元に住んでいたときは電車よりも車で移動することが多かったことを思い出す。

地元のことを考えていたら、かつての家族旅行を思い出した。京都など遠いところまで父はいつも往復の運転をしてくれた。母は夜中から家族みんなのお弁当を作ってくれた。姉たちは私が渋滞でぐずっても、慰めたり楽しませてくれた。

今は私は初めての一人旅行に来ている。一人もいいけれど、家族や友人、誰かと行く旅行もやっぱりいい。一人だからこそいつも考えないことを考えることができた。旅行は非日常を味わうことで、当たり前の日常の大切さにも気づかせてくれるのかもしれない。

これからも私は何度も沖縄に行くだろう。綺麗な海も、暑い気候も、あったかい人たちも大好きだ。

「いつか東京に、沖縄のご家族と来てみてください」

店員さんは、また笑ってくれた。







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