見出し画像

永遠になる速度で

本当はきみを抱きしめたかったね。
自ら孤独を選んでしまうきみのその脆い強さを抱きしめたかったね。

君に追いついた時の景色をどうしても見てみたかった。
どれだけ手を伸ばしても指先をかするだけで掴ませてすらくれなかったね。
そんなに生き急がなくていいんだよって本当はきみを抱きしめたかった。
速く生きるということは孤独と戦うということ、いつだって先を行くきみにはそのくらい分かっていたはずだよね。
追いつけなかった人の存在って自分の中で永遠になってしまうんだよ。かなしいことに。
生き急いでいるきみは、速くなりすぎてきっとあっという間に歳をとってしまうだろう。
わたしはきみと同じ速さで足を並べていたかった。
いつか、すごい速さで生きてきみに追いついてみたい。だけど、きみは全速力のわたしよりももっとずっと早い速度で生きているだろうから、きみにはきっと生涯触れられない。
抱きしめることすらできない。
自ら孤独を選んでしまうきみの脆い強さは、本当は今にも壊れそうなくらいの儚さで満ちていた。

もう二度と会えないのなら存在しないのと一緒なのに、脳に横たわったきみの死体は記憶の片隅で冷凍保存されてわたしの永遠になる。

わたしの永遠になる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?