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運命の速さ

わたしがきみで、きみがわたしに見えた夜があった。運命の向こう側で出会ったわたしたちは、あの時確かに魂を越えて繋がりあっていた。あれがただの自慰行為なんかじゃなかったということ、透明な傷跡たちがちゃんと証明してくれている。片思いのままのスピード感で生きていきたいとずっと思っていた。些細なことで舞い上がって、どうしようもないことで泣きわめいて。自ら壊しては治して、また壊して。そのくらいの突拍子のなさがいつだってちょうど良かった。わたしのこころが、もっとわたしを見てって言っているみたいで気持ちよかった。電池切れのように動かなくなったと思えばまた激しく動き始める、わたしは壊れたおもちゃのようになる。そこにはきっと、幼いままでいたいわたしの気持ちが投影されていて。わたしたちはいつでも簡単な運命を信じて無理やり本物を作り出している。それはいつだって歪できらきらしていた。今では腐っている縁も、あの時は確かに強固で確実な運命だった。きみを好きだというこころの速さ、その速度感のまま生きていけたら。ずっとそう思っていた。だけど、そうしたらわたしは一瞬で、すごい速さできみを追い越してしまって、きみとはもう二度と会えなくなるだろう。運命は通り過ぎていく。

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