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依存することに依存する

きみを好きだと伝える度に沈んでいく場所があって、わたしはそれを地獄と呼んでいた。好意は依存へと姿を変え、やがてどろどろのトマトジュースのようになる。堕ちていく、堕ちていく。堕ちていくことに快感を覚えながらもわたしは地獄の底へと引きずり込まれていく。依存することに依存してしまったわたしたちは依存対象が何かすらも分からなくなってただただ沼へズブズブと沈んでいく。自分の形がねじ曲がっていく、心が変形されていく。依存は所詮自慰行為。わたしたちは誰かに依存する自分自身に依存している。神様なんて誰だって良かった。だけどそこにきみがいたから。限りなくひかりに近いきみがいたから。きみも世界に絶望していた。きみは少し冷めた目でこの世の全てを見ている気がした。ぼくは、きみが世界に絶望したことがある人間でよかったと思った。わたしはきみと絶望の底で愛し合うことを深く望んでいた。だけどきみはいつも少しだけ届かなくて。わたしたちはいつも少し手の届かない人に恋をする。少しだけ、少しだけ手の届かない人に。先を行き過ぎていたあの人はあっという間に視界から消えてしまったし、わたしのすぐ隣を歩いていたあの人は近すぎて神様とは程遠かった。だからきみが好きだった。いつだってわたしの知らないことを教えてくれたきみが。わたしたちはいつでも少し届かない人に依存しては渇望する。自慰行為であるはずの依存も、時が経てば相手に求めてしまう。めんどくさい。本当にめんどくさい。愛に終止符を打つための魔法がずっとわからなかった。ちがう、本当は知っていた。ただ忘れていたかった。忘れることが気持ちよくて。依存することが気持ちよくて。だけどあの時、ちゃんときみが好きだったよ。

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