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天国

プール前に浴びる地獄のシャワー、冷たくて騒ぎながら浴びる学校のあの水しぶきが今思えば眩しいひかりだった。ぼくの孤独は、足に伝わるプールサイドの滲み出たような気持ち悪さと鼻につく塩素の香りが混ざりあってできていた。水に濡れた髪の毛の心地悪さが吹き抜ける風で少しずつ乾いていく。襲われる眠気で先生の声が遠のいていく。指定カバンの奥底にぐしゃぐしゃになっていた宿題プリントは提出期限をとっくに過ぎていた。水に濡れたあとの教室はいつも以上に古い旧校舎の香りで溢れている。陽の当たる窓際の席、微笑む天使。あの子はぼくの太陽だった。席替えのくじ引き、黒板に書かれたきみの名前で隣の席は天国になる。きみの濡れた髪がなびく。

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