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10年間、小説家をやってきて、後悔していること。

noteのアカウントを取ったのって、打ち切りを告げられていた『レッドスワン』の続編を発表する場所が欲しかったからなんです。しかし、その後、続編の刊行が決定したこともあり、放置している時間が長くなってしまいました。

たまには何か書いてみたいと思います。

レッドスワンの続編については、下記のページを参照して頂けたらと思います。現在、プロモーションも兼ねて無料連載中なので。


今年の1月にデビュー10周年を迎えました。

10周年記念を意識して動いてきたわけではないのですが、偶然、今年は里程標になりそうな作品を沢山発売出来そうです。

上述の『レッドスワン』は(秋に出る5、6巻まで含めて)これを書けたので、もう死んでも良いやと思うような作品ですし。

3年前に、当時、今までで一番良く書けたんじゃないかなと思った単行本『君を描けば嘘になる』が、今月、文庫になります。綾崎隼の名前は知っているけど、読んだことがないやという方は、文庫になりましたし、こちらを手に取って頂くのが良いと思います。

コロナ禍で発売日が延びていますが。

正真正銘、10年間で一番、素敵な本を書けたんじゃないかなと思う新作、『盤上に君はもういない』も、秋に発売予定です。(第一部はこちらでお読み頂けます)


宣伝も終わったので本題に。

事故や病気などのトラブルもありましたが、信頼出来る編集者さんたちと出会えたこともあり、ずっと、楽しくお仕事をさせてもらっています。

子どもの頃から小説家になりたくて。今も小説家を続けられるならそれで良いやというスタンスで生きているので、基本的には後悔していることなんてないんですけど、一作品だけ、失敗したというか、あれは未熟だったなと後悔していることがあります。

それは6年前にメディアワークス文庫で発売した『未来線上のアリア』です。

この作品は商業で初めて書いたSFで、自分の本を好んで読んでくれている読者さんにも、恐らく最も手に取ってもらえなかった本です。

発売後、日本SF大賞にもノミネートされた野﨑まどさんに「SFが好きな人たちに読んでもらいたいなら、SFに強い出版社から出さないと、そもそも届かないことが多いです」という真っ当なアドバイスをもらいました。

売上的にも、印象的にも、その通りでしたが、その辺りは、勉強になったなという感じで消化しています。

では、何に後悔しているのかというと、作品の描き方についてです。

SFには「冷たい方程式」ものと呼ばれるジャンルがあります。SFに明るくないので、『アリア』の感想を頂くまで知らなかったんですが、乱暴に説明すると、【密室状態の宇宙船でトラブルが発生し、酸素が足りなくなり、全員で生き残るのは不可能になった。さて、どうする?】という物語を指すようです。

『未来線上のアリア』も同様の物語です。『冷たい方程式』を知らなかったので、設定も物語が向かう先も違いますが、根幹のシチュエーションは同じです。

8人の乗員がいて、目的地までの航行を成功させるためには、2人が犠牲にならなければならない。そのため【投票で犠牲になる2人を選ぶ】しかない。簡潔に言えば、そういう物語です。

そして、後悔しているのが、まさにこの部分になります。

デビュー直後の何冊かについては、文章的な意味で書き直したいなぁと思うことがあるのですが、内容については完全に満足しています。ただ、この本についてだけは、こうすれば良かったという後悔をずっと持っています。それは、

【投票で犠牲になる2人を選ぶ】

のではなく、

【投票で生き残るべき6人を選ぶ】

にすれば良かったというものです。

『未来線上のアリア』は群像劇でもあるので、8人全員に哲学、正義があり、やがて票の奪い合いが始まります。ただでさえ複雑なのに、各自が票を6票持っているとなると、物語は数段ややこしくなってしまいます。

当時の自分に、それを矛盾なく書き切れたかは疑問ですが、描きたかったテーマを考えても、死ぬ者ではなく、生かすべき者に票を投じる物語にした方が、絶対に良かったなと思うんです。

ロジックを変えても、ストーリーや結末は変わりません。売上も認知度も変わらなかったでしょうけど、でも、作家として、作品の内容部分で後悔している唯一の箇所なのです。

小説を書いていて、物語を何処で終わらせるかに迷うことが時々あります。

例えば『青と無色のサクリファイス』や『世界で一番かわいそうな私たち』は、自分が読者だったら、あと10ページ書いて欲しいだろうなと思います。でも、あえて、ここで終わるべきだろうと思って、物語を閉じています。

『未来線上のアリア』も同様でした。読んで下さった方は『了』の後を、10ページで良いから知りたいですよね。そして、この本に関してだけは、あと10ページ、書くべきだったんじゃないかなと、今でも思うことがあります。何故なら、頭の中で固まっていたその先のストーリーは、どんな読者にも絶対に想像出来ないだろう展開だったからです。それでもあえて、当時は書かなかったんですけど。


幸運なことに、10年間、小説家として生活出来ています。

恵まれているなぁと思いますが、いつ、ブレイク出来るんだろうという疑問も、ずっと抱えています。ちなみに何を持ってブレイクしたと判断するかと言うと、単巻10万部です。(10万部売れたら、自分の本を好きだと思ってくれる人に、大体、届いているような気がするので)

シリーズならともかく、単巻で10万部の壁は高いし、これからも高くなる一方でしょうけど。いつかブレイクして、『未来線上のアリア』を再販してくれる出版社と出会えたら。

タイトルに『方程式』を入れて、投票方法を変えて、エピローグを10ページ書き足して、SFが好きな人にも読んでもらいたいな。そんなことをつらつらと考えながら、今日もブレイクする日を夢見て、新作を書いています。


……まあ、今は秋に発売される『盤上に君はもういない』でブレイクする予定でいますけど。
予定は大体、狂うんですよね。

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