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おおきなものに降られながら一滴ずつ濾過する

「どこに降ろうか」と雨のような気持ちで書き出す。
体をなくせる、わたしをなくせる、幾つもの生を得られる、と言うと胡散臭いと思うのは人間の頭。

子へ書いても、木へ書いても、土へ書いても、あなたへ書いても、朝へ書いても、もういないひとへ書いても、紙へ書いても、恋人へ書いても、見知らぬひとへ書いても、雨へ書いても、病を得たひとへ書いても、春へ書いても、友へ書いても、泣くひとへ書いても、うつくしいものへ書いても、眠れないひとへ書いても、見えぬものへ書いても、すべておんなじように幸せ。

だから、わたしは手紙を書きすぎる。

『観光記』(2020)収録

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