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いい

しつらえられた空間ではみんな大きくて立派。そもそもどこにいたってみんな、いい木。悪い木なんていない。たくさんの手が撫ぜてつやつやになった木も、奥で光を浴びてただ立っている木も。みんなひとりで、みんないい木。
(ああその中でもあなたはとても光って見える)
駆け寄り撫ぜた日陰のでこぼこした一本の木を、後から真似るように母子が撫ぜていたのを見た。「ほら、いいこにしてたらね、こはるちゃんはいい子だねえって神さまはわかるからねえ」隣でお参りをしていたこはるちゃんとお母さんだった。どこにいたって、みんないい子。悪い子なんて、いない。きっと他の誰かはあの木を撫ぜたり拝んだりしないけれど、あの木は今日私とこはるちゃんとお母さんが触れた木。よいお参りでしたね。よいお参りでした。

こはるちゃん、あのね、もうすこし話すとね、いい木もいい子もそこにいるってだけで、いい。って意味の「いい」だよ。背が高い木があったり、花が咲かない木があったり、足の早い子がいたり、あまり話すのがすきじゃない子がいたりするだけだよ。私には最近、いろんなことがおんなじに思えてきたんだ。もともと背比べもかけっこもすきじゃない子どもだったけれど大人になってからは、背の高い木や低い木がいろいろ並んでいる景色をすきになったし、ゆっくり歩く人と一緒に歩きながら、速く走っていく人を眺めたり応援したりするのがいいなって思うようになったよ。「みんないい」て言ったらみんな「それはよくないよ」と言うけれど、みんなここにいるだけでいいってほんとうはずっと言っていたいし、言えない日も、思っているよ。

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一対一で見て、触れて、感じたことを信じていい。
私は、心から信じていい。
あなたも、信じたいだけ信じていい。

『観光記』(2020)収録

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