11月某日、[JP]Tutorial worldにて。
「なんか良いワールドないですか?」
ある。たくさん知っている。
VRChatには「良いワールド」が無数にあり、それは毎日のように増え続けていてとても追いきれないけど、私はそれらを少しでも多く捉えられるようこの1年VRChatをプレイしてきたし、VRChatワールド探索部というまさにそれを主目的としたコミュニティにも所属している。
だからあなたに紹介したい「良いワールド」はいくらでもお出しすることができるぜ。任せてくれ。
なんて、そんな風には言えるはずもなく。
「そうですね~…」とか頼りない返事をして、Favorite worldsを眺める。
目の前のNew Userはどんなワールドが好きだろう。
VRHMDの購入もまだ迷っており、デスクトップで遊んでいるという。
「今日は時間が足りず行けないのですが、PROJECT˸ SUMMER FLAREは行きましたか?」と尋ねたところ、聞いたこともない様子だった。
きっとこの人は無数の「良いワールド」のほとんどを、まだ知らない。
何かの巡り合わせで今ここにいるけれど、VRChatに没頭はしていない。
ならば。いや、だからこそ責任重大かもしれない。これからの自分の選択次第で、この人のVRChatへのイメージはいかようにも動くだろう。
この記事では、その日実際に選んだワールドを紹介していきたい。
「良いワールド」とする軸もまた無数にあり、冒頭の問いへの答えは無数にある。しかし、VRChatに慣れていないVisitorやNewUserに1時間弱で紹介するという観点で選んだワールドを。
どれもある程度ワールド巡りをしているユーザーなら知っているであろうワールドだが、何度でも再発見されてほしいと思っている。
Aquarius by Fins
現実感のあるルックで、しかし現実ではまだ行けないような近未来的な空間。
ワールド全体のクオリティが高く、この空間の温度や湿度まで伝わってくるような臨場感がある。
多くのワールドでは、リアルタイムレンダリングの負荷に現代のマシンスペックが追い付いていないこともあり「別世界にいる」というよりも「3Dモデルの中にいる」と感じ冷めてしまう瞬間がどうしてもあるように感じる。
私もワールドをアップロードしているユーザーの1人なのでその壁をどうにか超えられないかと工夫を重ねているが、このワールドにはその答えの1つを示しているかのような完成度の高さを感じる。
UIや扉もそれ単体でのクオリティはもちろん、この空間にマッチしていて臨場感が補強される。
要は「VR(Chat)ってすごい!」とストレートに感じてもらえるワールドだ。もしくはデスクトップユーザーならば、この部屋をVRHMDで見てみたいと思ってもらえるような。
Vacuous Park by phi16
phi16さんのワールドはどれも魅力的で、まさしく新しい世界を拓いているような表現に心を打たれる。私のVRChat歴に合わせUnityやシェーダーなど技術面の理解が進んできた最近でも、当初の感動が褪せるどころか逆に増すようなものばかりだ。
その中から、最初の一つとして誰かに紹介するなら私はVacuous Parkを選ぶようにしている。
技術的な説明までする必要はなく、観覧車に乗ればGPUパーティクルの美しさを余すところなく感じることができる。上に行くにつれ夜景や流星のような表現が見え始め、下に降りるとまた元の静けさを取り戻す。
最初の一つとして紹介している理由は、再訪したくなるワールドだからだ。新たにできた、自分よりVRChat歴が短いフレンドに「なんか良いワールドないですか?」と問われたとき、Vacuous Parkはとても行きやすい。実際何度も訪れた。2人で話しながら見れるし、0.5MBだから回線速度を問わないし、数分で見終わるのに観覧車に乗ったという思い出ができるし、誰にもわかりやすく美しい。
しかし再訪するそのプレイヤーがワールド巡りに慣れ始めれば、ワールド作者の他のワールドをチェックするだろう。このワールドが普通のワールドとは一線を画していることに気付く。「Amebient」や「The Mori 2019 Christmas」はある程度VRChat慣れしてから行くほうが感動が大きいはず。またその他の個性的で技術的で詩的で実験的なワールドにも触れるかもしれないし、間違って「Vacuous Park: Alter」を開いて驚くかもしれない。
Luna Ascension by rakurai5
ワールドに入って最初に見える景色は、階段と白い背景のみ。
階段を登ると、幻想的な景観が飛び込んでくる。
月と蝶をモチーフとした幻想的なワールドは多いが、このワールドはその中でひと際美しい。何時間でも居られるような、居たくなるような場所だ。
色調、動線、配置…そして物語性といった様々な要素の調和が取れていて世界としての強度が高いことが、このワールドの美しさを支えているのではないかと思う。
最初の階段の演出はもちろん、奥の木に引き寄せられるまでに何度も良い構図が目に入る。
ポストプロセスの調整によるものなのか、アバターを含めて写真を撮った際にも良く映える。
そして最後にこの絵があることで、ここが単なる場所ではなく世界として成立しているようにも感じる。
現実世界の空間であれば、温度や匂いといった視覚以外の五感からも雰囲気を捉えられる。ではVRでは?
空間において「物語性」や「文脈」とでも言うべきもので強度が増すというのは、現実世界には無い要素だ。確かに触覚、味覚、嗅覚はまだ持ち込めない。しかし代わりに、この空間を満たす意思や意図の濃さが空気のように、霧のように、雰囲気として漂っている。
Gallery Lens by ecochin
Gallery Lensは私がNew Userだった頃に連れてきてもらったワールドだ。
このワールドに展示されている写真からは、どれもが「ただの3Dモデル」ではなく「魂の入った人間」であることが伝わってくる。
ここを初めて訪れたとき、VRChatは普通の3Dゲームとは何かが違っていると感じ、その後多くの時間を過ごすきっかけとなった。私にとってのVRChat原体験とでも言うべき体験だった。
所詮ハンドサインに連携したシェイプキーだからという意味で「VRChatでは表情はあるようでない(から気をつけよう)」と言われることがあるが、私は逆に「表情は無いようで在る」と感じている。顔の表情こそアバター毎に一定の形をしているが、頭の角度や手の動きは想像以上にその人の感情や態度——心の動きを反映している。足まで動けば尚更だ。
VRChatで知り合った人と現実で会っても違和感が無かったり、一目でその人だとわかったという話を耳にするのはそのためだろう。
そこに人が存在しているという感覚が、熱が写真から伝わってくる。
そもそも「スクショ」ではなく「写真」と呼ぶのに全く違和感を感じていないことさえ、誰かに指摘されるまで気づかなかった。
…残念ながらこの日はここで時間切れとなってしまった。
VRChatワールド探索部のフレンドもJoinしてきてくれていたので、あとはお任せして寝ることにした。きっと私一人の観点で紹介し続けるよりも偏りなく広い世界を見れるはず。
VRChatには「良いワールド」が無数にあり、それは毎日のように増え続けていてとても追いきれない。
でも、VRChatで長く過ごすにつれ目が肥え、プレイ開始当初のような感動は徐々に見つけにくくなっていく。打開しようと一人で未開のワールドを巡ってみても、なぜか味気ない。誰しも覚えがあるはず。
そんなとき、複数名で行くワールド巡りは何度でも当初の感動を思い出させてくれる。見落としていた良いワールドを教えてもらえることもあれば、自分のお気に入りのワールドを教えて感動するフレンドを見れることもある。自分一人では見つけられなかった良いワールドで、その後何度も語り合える新しいフレンドに出会えることだってある。あった。
だから、たくさんの人に聞いてみてほしいと思う。
「なんか良いワールドないですか?」と。
きっと誰しも紹介したいワールドがあるはず。
後日。
Friend Locationにこの日の人がPROJECT˸ SUMMER FLAREを訪れていると表示されていた。夏を、壊せたのだろうか?
※この記事は #ワ探アドカレ ことVRChatワールド探索部 Advent Calendar 2021の3日目の記事です。