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【妄想小説】ママの呪いの言葉

「子どもがやりたいって言ってるんですよぅ」

「子どもが決めたことなんですよぅ」

「子どもの希望を尊重してるだけなんですよぅ」

「子どもが受験したいって言ってるんですよぅ。私は別に公立中学でもいいと思うんですけど、どうしても子どもが受験したいって言ってるんですよぅ」


いつも井戸端会議で喋っていたママの言葉。

「子どもがやりたいって言ってるんですよぅ」

何回言ってたかこの言葉を。

マジでウザイ
マジでウザイ
マジでウザイ

確かにね、確かに自分から中学受験したいって言ったよ。小学校3年生の時に、仲が良かったひまりちゃんと玲奈が受験するって聞いて、それなら自分もした方がいいかなと思って言ったよ。でもね、その時はそんなに深い意味は無かったんだよ。だって、まさか塾がこんなに大変だなんて、受験がこんなに大変だなんて、その時は思ってもみなかったんだから。

辛い
もう辞めたい
何度も何度も思ったけど、ママの言葉が怖くて言えなかった

「ママが決めたんじゃないよね!最初にあなたがやりたいって言ったんでしょ!自分の言葉に責任持ちなさいよ!そうじゃなきゃ、将来ろくな大人にならないわよ!」

最後はプレッシャーに負けたのか、ママに負けたのか、受験にも負けた。


令和6年夏

中1から入っている今の塾は、

「中受で涙を飲んだ君たちへ、リベンジして高校はトップに行こう!」

と謳われている、ママが探してきた所だった。

家から自転車で30分、同じ中学の子は誰もいない。最初の頃はママが送り迎えをしてくれたけど「受験には体力も必要だから」という理由を付けて、自分から自転車に切り替えた。
本当はママの小言から逃げる為だった。

車に乗るたびに、
「早くしろ」「誰のために送り迎えしてやってるんだ」「ママの時間を返せ」「あの時中学受験に受かっていれば」
その繰り返しが本当にうんざりだった。

塾までの自転車30分は、心臓破りの坂道があって大変だけど、ママの小言を聞かなくて済むし、何も考えなくていいから気分転換になった。



今から2年半前
中受に落ちて地元の公立中学に行く事になったのは、友達の間で私だけだった。
玲奈は第1志望の公立の中高一貫校に受かって、ひまりちゃんは私立の女子校に進んだ。
うちは私立中学に行ける金銭的余裕は無かったし、何よりママが「中高一貫校よりも偏差値の高い公立高校に行って、あの2人を見返してやるのよ!」とイキリ立っていたから、そのまま地元の公立中学に通うことになった。

制服の一斉採寸の時に行かなかったから、私が受験した事は周りにバレバレだったけど、誰もどこを受けたとかは深く聞いてこなかった。自分から言う程の事ではないと思ったけど、誰にも何も聞かれないのも、それはそれでなんだか気持ち悪かった。

中学では美術部に入りたかったけど、ママが「運動部の方が内申はよくなる」と、一体いつの時代の事を言ってるのかわからなかったけど、仕方無く部員が1人しかいない女子バスケ部に入った。ほとんど活動はしてなくて、実質男子バスケ部のマネージャーのような役割しかなかったけど、勧誘のポスターを書いたり、男子部員の似顔絵を一人一人書いて応援のウチワにしたら喜んでくれた。私自身バスケは殆どしなかったけど、3年間運動部に所属していたという証明書を受け取る事が出来た。


私が目指すのは、東京都の公立高校上位に君臨する西東京高校。偏差値は72、ほぼオール5の成績の子達が受験する。
私の内申は足りてなくて、この前の三者面談ではママが担任に食ってかかってた。
「なんでオールAなのに5じゃなくて4なんですか!4と5の違いについて説明してください!」
担任はモンペを見るような顔でウンザリしてたけど、きっとママにはいくら説明してもわからないと思った。内申の4と5には明確な違いがあることなんて、学校で授業を受けている生徒には明らかにわかる事だけど、感情的でヒステリックになってる部外者のママには、絶対に伝わらない事だと思った。



塾の夏期講習初日は37℃の猛暑日だった。
こんな日は、いつもの心臓破りの坂道がより厳しかった。せめて夏期講習の間だけでも、午後からのパートで朝は筋トレに夢中なママに車で送って貰いたかったけど、
「自転車で行くって決めたのはあなただよね?」
と、子どもの思考のアップデートを絶対に認めないママには、何を言っても無駄だと思った。

せめてもの暑さしのぎで、スーパーの2階で買った庭仕事用の大きなハットを被って、首にはケーキを買った時に貰った保冷剤を付けて、上からダイソーの手拭いを巻いた。いつも自転車ですれ違うオバサンがやっているのを真似した。

重装備をして塾に行く私に向かって、
「昭和のオバサンみたい」とママはバカにした。
「ママみたいに顔からスダレかけてる方が、よっぽど令和のオバサンだよ」と言い返しそうになったけど、
「今はレトロブームだし」と言ってごまかした。


「行ってきます」

リビングにいるママをチラリと見て言ったけど、筋トレに夢中なのか、それともただ単に更年期なのかわからないけど、鬼の形相で全身汗だくのママからは、何も言葉は返ってこなかった。








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