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<ネタ帳:あ>アンタがキライ(タイトル あの頃 /本文 2020)

 カラオケの十八番、自己紹介の鉄板ネタ、そういったものを持つ人は強い。自分の場合はメモリが少ないのと、飽きっぽいので、長期間にわたって定番化しているものは少ない。何度か話しているうちに、飽きてしまう。しかし、そんな中での数少ない、相手が驚いてくれるエピソードの鉄板は、学生時代に警備員のアルバイトをしていた、というのものだ。かつて、謂わゆる、秘書コスで働いていた頃には、このエピソードに助けられたことは少なくない。まぁ、ありがちなギャップ萌えってやつですね。

 学生時代といっても、警備員のアルバイトをしていたのは、大学4年の冬休み?春休み?卒論を出して、その後、後期のテストがあったのかさえても、今となっては思い出せないのだが、冬の終わりから早春にかけての時期だった。

 割と甘やかされて育ったので、今、思うとどうなのか???という状況ではあるが、大学の卒業旅行の費用を親が払ってくれることになっていた。まだ、社会で働いたこともないのに、バリ島のビーチでのんびりしようとするイケ好かない若者だったから、バチが当たったのか、出発前日に、母親が一緒に旅行に行く友人を悪く言ったことが発端となり、何がどうなったことか、旅行はキャンセルするし、費用は払って欲しくないと言い放つことに。甘やかされて育った割に、愛嬌のない娘であった自分は卒業旅行の出発日に渋谷で警備会社の面接を受けていた。

  面接とは形ばかりで、名前が書けて、前科がなければ誰でも採用されていたのだろう。4日間の研修を経て(研修中もバイト代が支給されて、毎日ミックスフライ弁当が支給された)めでたく現場にデビューと相成った。年はいくつだと思われても良いのだが、就職活動にはものすごく苦労した氷河期世代なので、バブルは弾け切っていたことだけは、強く明記したい。(笑)

  今はどうなのかわからないが、当時は女子は夜間の仕事はできなかった。私は就職が決まっている学生ということで短期の現場や、女子リクエストが入っている現場を当てられることが多かった。私が行った短期の現場とは道路工事が多く、携帯電話さえない時代に地図の番地を頼りに環八や、環七の道路工事の現場によくたどり着けたものだと感心してしまう。

 そんな現場の一つが埼玉県にある中規模ターミナル駅のホームの蛍光灯の交換というものがあった。電気工事の作業員が脚立に乗って蛍光灯を替えていく間、脚立の周りにロープを張り、そこに立って通行人の安全を確保するというもので、主な作業はホームに着く列車の車掌さんに会釈をすることである。いくつもホームがあるので10日くらい通っただろうか。何しろ駅が現場なので、道に迷うこともなく、トイレや控室まである恵まれた現場だった。作業は現場監督とその部下が行う。その当時はわからなかったが、思い返してみるに、あの監督は今の自分よりは年下だったかもしれない。部下は監督を恐れるおどおどした若者という記憶しかない。警備員だけが別の会社の所属ということになる。部下はおどおどしていたものの、最初の数日は3人で昼食をとったりもしていたので、スタートは悪くなかったはずだ。特にこれと言った出来事はなかったと思うが、日に日に監督からの風あたりが強くなっていった。幸い、部下や駅員さんたちとの関係は普通に保たれていたと思う。今も変わらないのだが、幼少時より慇懃無礼な性格だった自分のことなので、文字して問題になるような発言はしなかったとは思うが、溢れる生意気さがお気に召さなかったかもしれない。警備員は、現場に入る前と、現場から出た後に事務所に電話連絡(公衆電話から!)をすることと、タイムカードに現場監督のサインをもらうことが義務付けられていた。そのサインをもらうことさえ、苦痛に思うような状況になっていた。

 そんな、ある時、駅員さんが、作業場に来て、現場監督とちょっとした雑談をしていた際に、警備員さんもよく頑張っている的なことを言ってくれた。それに対して、監督が吐いて捨てるように、「そうですか?こいつは男嫌いの生意気な女なんですよ。」と言っているのを聞いて、「別に男全員が嫌いなわけではないです、アンタがキライ!」とヘルメットを深くかぶり直しながら、心の中で低く呟いた。この監督の言葉が呪いとなったのか、その後も何度か同じような言葉を聞くことになる。その度に自分も同じ言葉を心の中で繰り返した。男好きだと言われるより、ずっと良いと思った時代もあったが、実は男好きと言われた方がイージーモードの人生を送れたのではと今は思う。

<2020 メモ>

このタイトルを見て、この現場監督のエピソードを書こうとしていたことを思い出したので、それを書いてみたが、なぜ、監督との関係が悪化したかについては全く思い出せない。いかにもたたき上げという方だったので、苦労知らずに見える愛想のない女子大生が鼻についたのかもしれない。もっと、感じよくできたらよかったのにと思う。

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