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AYAME便りVol.6 編集後記

早いもので、『AYAME便り』を始めて半年が経ちました。
今回は、第一回目の動画でも活躍したヴィエルが再び登場します。
日本ではハーディ・ガーディという呼び方のほうが馴染みがあるかもしれませんが、ハンガリーでは「テケルー」、イタリアでは「ギロンダ」、ドイツでは「ドレーライアー」という名で、今でもヨーロッパ中で親しまれています。右手でハンドルを回すことにより、木製の円盤が弦を擦り、音を発します。鍵盤で音程が変わるメロディ弦の他に、一つの音が鳴り続けるドローン弦もあり、まるでバグパイプのような響きです。

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  歴史は古く、中世では教会で演奏されていました。ルネサンス期になると庶民の楽器になり、村の祭りなどで使われていた様子が絵画の中にも描かれています。

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(中世の教会の楽士)

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(ルネサンス絵画に登場するヴィエル弾き)

  1700年代に入るとフランスの貴族たちの間で流行し、たくさんの作曲家が作品を残しました。ルイ15世の妃、マリー・レクザンスカもこの楽器を演奏している肖像画があるほどですから、大流行だったに違いありません。作品のタイプは2種類で、イタリア風の技巧的なものもありますが、ほとんどは「村の踊り」や「田舎の愉しみ」といったタイトルのついた、田園風景を思い起こさせるようなものです。バロック音楽のヴィエルは、ドローン弦がCとGということもあり、ハ長調、ハ短調、ト長調、ト短調の曲しかありません。また、曲の中での転調もあまり遠くにはいけません。ドローンはずっと同じ音なので、ハーモニーがきたなくなってしまうからです。しかし、ちょっとした転調でのドローンとのぶつかりが不思議な雰囲気を醸し出し、それも魅力となっています。

 残念ながら、フランス以外の国では、身分の低い人たちの楽器というイメージが拭えず、流行しませんでした。(もし他の国でも流行っていたら、テレマンならどんな作品をかいただろう…などと想像してしまいます!)そのような理由もあり、ヴィエルを含む作品はフランスバロックの特徴の一つであると言えるでしょう。

  今回の作品は、ジャック・オベールというパリで活躍したバイオリニストによってかかれたもので、特に有名というわけではないのですが、単純すぎないのに「田舎風」が表されている良くできた作品だなと思い取り上げてみました。動画の最初には、このヴィエルやミュゼットのためにたくさんの作品を残したニコラ・シェドゥヴィルの楽譜の表紙の絵を使用しました。貴族たちが屋外で音楽を楽しんでいる様子が描かれています。宮廷の堅苦しい礼儀の世界から逃れて、田舎の自由に憧れを持っていたのかもしれません。

 少しでもこのジャンルに興味を持っていただけたら嬉しく思います。

野崎真弥


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