パスワード

「パスワードを入力してください」
いま、声に出して読みたくない日本語ナンバーワンだ。仕事柄スマホやパソコンを朝から晩まで駆使している私は、定期的にこの言葉の洗礼を浴びることとなる。間違ったワードを入力すれば「パスワードをお忘れですか?」と追い込まれ、記憶力の低下を責められているようでイヤな気持ちになる。
銀行のATM用に4桁の数字さえ覚えていれば良かった時代は遥か遠く、パソコンの起動、メール設定、ネットショッピング、動画の閲覧、アプリケーション、SNS、膨大な「パスワード」を保管することを求められる。
携帯電話の登場で電話番号を記憶することから開放されたと思ったら、スマホに進化した先に待っていたのはパスワード地獄。電話番号が漏れてもいたずら電話がかかってくる程度だが、パスワードには「お金の決済」も絡むこともあるため簡単には割り出されないパスワードが求められる。そもそも「個人を特定するための文字列を作れ」と言いながら、誕生日や組織名など「個人が特定されやすい文字列」はお使いになれません」とは、もはや禅問答の様相だ。
パスワードとはそもそも「合言葉」を指す。A.I(人工知能)が進化していることだし声紋認証などを駆使すれば、パソコンに向かって赤穂浪士よろしく「山」「川」くらいの会話で認証できる未来が来ることを願ってやまない。



北海道新聞 朝の食卓 2020年3月5日掲載

アヤコフスキー@札幌。ディレクター・デザイナー。Salon de Ayakovskyやってます。クロエとモワレの下僕。なるようになる。リトルプレス「北海道と京都とその界隈」で連載中 http://switch-off-on.co.jp