夫の事実 妻の真実
うちの妻は書く人である。
それをとやかく言うつもりはない。
自分には全くもってわからないが、書くことが
妻の精神を安定させ、書いているうちに人の輪を広げていた。
謎ではあるが、良いことだと思う。
妻が書いたら、読んでいる。昼休みに読んでいる。
今日はいいねと思うのは、自分や息子のことを書いている日だ。
たまに泣いてしまう。妻の書いた文章で、昼休みにうっかり泣くのは、50だから仕方ない。
書いてあるものと、自分から見えている風景は時に異なる。
それもとやかく言うつもりはない。妻からはそう見えているということであり、加えて妻はたいてい全てを書いてはいない。
全てを書いていないが、トリガーを忍ばせている。
それを読めば記憶が甦る引き金は、居合わせたものにしかわからない。
私の妻は書く人である。書いて残すことに、執心している。
書いたものは妻の真実であり、口出しは控えてきたがやはり、今回は言わなければならない。
妻は忘れているのだ、あの日のことを。
妻は、嫁いで我が家に来て以来、自分の外出を家族に伝えることを苦にしている。
見ているこちらとしては、そんなに思い詰めなくてもよいのではないか。と進言したくなるが、口が裂けても言えない。それぐらいに妻は四苦八苦している。
1人悶々と、機を狙い、見定めを誤りまくる。
不器用だし、いい子でいたいのだ。性格や思考はそうは変わらない。
見るに見かねて、「俺の用事ってことにしようか?」と提案したことがある。
その時に、妻は私を見て言ったのだ。
「あなたに嘘をついてもらってまで、出かけるのは嫌だ」と。
失礼なことを言ってしまったと思った。
それは、妻が越えなければならない壁であり、妻が自分で解消したい課題であったのだ。
それから数十年。彼女は全く課題解消に至らない。
出かけるのを言い出すことに、毎回、その都度四苦八苦している。
こんなことを自分でいうのもどうかと思うが、
私は大変気がつく男だ。
そして、優しい男でもある。
四苦八苦を助けてあげたい。のは山々で、そこをグッと堪えてきたのだ。
にも関わらずの、このnote。
声を大にして言いたい。
私はいつでも嘘をつく準備はできていたのに、お前が断ったんじゃーん!!!と。
妻にこのたび異議申し立てを行った。
お前、これはやばいだろ、バレたらどうすんだよ!と注意したことはあったし、叱ったことはあったが、異議申し立てはそうはない。
喧嘩したいわけではない。
ただ、自分はずっと妻の味方だったのだ。我慢の種類は違うが、我慢をしていた。
妻にあの日のことがあったから、ずっと自分が嘘をつくのは控えていたんだよ。というと
「ああ、それ、若い時だよね。ああ、言いそうだな、私」と認めた。
「そうかあ、それを、鵜呑みにしてね…、それは本当に申し訳ないね」と謝ってはいるが、なんだか引っかかる物言いをしていた。
言葉を鵜呑み?これだから、書く人間はわからない。他にどう咀嚼するのだ、あの言葉を。
***
夫が嘘をつくというnoteは、さぞかし夫が喜ぶと思って書いたら、ちょっと不満と言われました。
過去の私が男前な啖呵をきっており、私は私の意地のために今までがあり、勝手に夫にモヤモヤしていた、心底自己中な女です。
ちょうどよく忘れている妻と、記憶力鮮明な夫。
ただ、本当に勝手な私はですね、ああは言っても、助けてほしいことがありました。
ああは言いながら、ちょっと上手く言ってくれないかなあ。って。思っちゃってきたんですよね。
だから、あのnoteは私の真実で、夫の事実とは異なるものになりました。
これからも、同じ時間を過ごして、隣にいても、書くことですれ違いや思い違いが明らかになり、互いに見える景色を確認することがあるでしょう。
書かなければ交わらなかった思いがあります。
夫は、気がきく思いやりのある人です。
そして、妻の意思を尊重するタイプの人です。
できれば、いつも読んでくださるみなさんの好感度は維持したいと思っている、したたかな人でもあります。
私は好きですね。
お気持ちありがたく頂戴するタイプです。簡単に嬉しくなって調子に乗って頑張るタイプです。お金は大切にするタイプです。