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妄想デート

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2020年3月の記事一覧

#Hotel 03 妄想デート 女にとって秘密は、買い物のついでにかごに入れるデザートのようなもの

夏も終わりに差しかかり、時折吹く風は秋の気配を含みだした。 彼女から連絡をもらったのは、そんな夏の終わりとも秋の始まりともつかない日だった。 予定を聞くと、「いつでもいいよ。主婦で暇してるから」と返してきた。 そう、彼女は人妻である。 結婚前の彼女は職業モデルとして活躍していた。私と出会ったのもその頃だ。 カメラにレンズを取り付けながら、その後どう?とそれとなく結婚生活の話に水を向けると、 「うん、よくしてもらってるよ。なんの不満もない」といって微笑んだ。 たしか、風のうわ

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#Hotel 02 妄想デート 女は概ね、捻じれた自己顕示欲と仄暗い承認欲求を己の亀裂の奥深い空洞に隠している

ある日SNSを通じて「作品を見ました。被写体として使っていただけませんか?」と連絡をもらった。 話を聞いてみると共通の知り合いもいるようで、この連載が決まった直後だったのもあり、会ってみることにした。 夏の盛りの新宿。待ち合わせは新宿伊勢丹の一階を指定した。 平日の化粧品売り場は客もまばらで、キャンペーン用に組まれたサーカスのようなセットの上で、美しい道化師が行きかう客たちの目を惹いていた。 そのセットを遠巻きに眺めるように彼女は立っていた。 スラリとした体形に長い手足の彼

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#Hotel 01 妄想デート 「見られていること」と「晒すこと」は女にとっては愉悦

「もうすぐ渋谷に着くよ」というLineに、「待ってる」というコメント付きのイラストのみを返して、入り口のドアに目をやる。 長野在住のユカ(仮名)から「来週東京に行くよ」と連絡をもらい、待ち合わせ場所を渋谷にしたのはいいが、7月のモアイ像は熱で蜃気楼のように揺らめいて、先に着いた私は一番近い東急デパートの入り口に避難していた。 夏に女性と待ち合わせするときは暑さと紫外線を避けるため、デパートの中など屋内を指定する。 女性と待ち合わせをする機会など久しくなかったため、かつては自

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