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蝉が見上げたそら


「知りませんでした

夏の夕暮れが
こんなにも
美しいものだなんて

頬を撫でる夕風が
優しく手を振る樹々の葉や
柔らかな草がこんなにも
愛おしいものだなんて

道路の隅で仰向けになって
初めてそらというものを感じた
いま

バラ色に燃える夕陽が
その力強く
優しい光で
私のことを焼いてくれたら…

私も
街を見守る太陽の
一部にしてくれたなら…

きっと
今日までの7日間
一瞬だって無駄になった時間はなかったと
心から信じられるような気がします…」

道路の隅に横たわっていた
一匹の蝉が
ひとこと
ひとこと
噛み締めるように
私に向かってこんなことを
ふっと呟いてくれました

「あぁ…そうだね、ほんとうに…。」
私はそのひとことを
何故か直接
伝えることが出来ませんでした