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あちらの暮らしはどうですか?

この時の記憶を忘れてしまわないように文面に残そう、
と思いながらなんだかんだ1週間がたってやっと書くことにした。

私が小学生のころ、我が家は新しい2人の家族を迎えた。

ピンとシャーだ。


ミニチュア・ピンシャーだから、
「ピン」と「シャー」。
安直すぎる理由。


「私と父はもっとかっこいい名前にしようよ!」と言っていた。

しかし、母が強行突破で「ピン」と「シャー」と呼ぶから、
もう彼らが自身の名前を「ピン」と「シャー」と認識してしまった。


そこから私たちは諦めて「ピン」と「シャー」と呼ぶことにした。


2人は兄弟で、ゲージに2人そろって残っているところを
離れ離れになるのはかわいそうだからと同時に我が家に向かい入れた。

「ピン」はいつも周りの目をきにすることなくぴょんぴょんと跳ね回っていた。

いつも耳がつんととんがっていて、体は小さいが果敢だった。

いつも目が合うと私の顔面目掛けて「遊んで!」と飛びかかってきた。


「シャー」はいつも相手の感情をくみ取る、穏やかな性格だった。
私が楽しそうにしている時は「遊ぼう!」と近くにしっぽを振りながら近寄ってきて、

私が難しい顔をしている時はそっとひざの上に載ってくる。

そして体は大きいのに繊細で、
悪さをして「あ!」というともう机の後ろに隠れている。

いいよって私が笑って頭をなでるまではずっとすみっこで様子をうかがっている。

「ピン」はそんなときもお構いなく走り回っている。


兄弟だけどま反対な性格。
そしてどちらも私の持っている性格でもある。
よく自分を見ているかのような気持ちになった。

「犬と飼い主は似る」とよく言うが、本当にその通りだと思う。


小学校から高校までをずっと同じ家で、
飼い主とペットというよりは兄弟のように過ごした。

私が大学で状況してからは、
ずっと会いに行けなかった。私が実家に帰る勇気を出せなかったからだ。

状況からしばらくして成人式の時に帰った。さすがに成人式の時はかえって感謝の気持ちを伝えよう、とドキドキしながら帰った。

大学4年生のときに自動車免許の取得でも一度帰省した。

その二度だけだ。


社会人になってからも実家に帰ることはなく、
社会人1年目の10月に「ピン」が息を引き取った。

父親から写真がおくられてきたが、実感がわかなかった。
その日はベランダに置いている机で、月と向き合いながら乾杯した記憶がある。


「あ、会えなかった」と後悔した。

そこから「シャー」にはちゃんと会いに行こうと思いながら、
勇気が出ることはなく社会人3年目に突入した。


年も年だ。人間ならもう80,90歳だ。

「耳が遠くなりました」

「目があまり見えなくなってきました」

「長い距離は歩けなくなってきました」

と父親から日に日に弱っていく「シャー」の様子が
LINEで送られてくる。


「生きられるのは、あと1年くらいかな」と話す。

そうしたらお正月休みくらいには顔を出しておこうかな、と思っていた。


ある日急に帰った方がいい気がした。
今まであんなに帰ることを遠ざけていたのに、
その時は一瞬の脳内のささやきで決めた。


そこから母親と最短で帰れる日程を合わせて、
一緒に帰省した。

家につくと、最後に会った時からは想像がつかないくらい
お爺ちゃんになった姿があった。


部屋に入るといつもと違う足音に気が付き立ち上がる。
生まれたての小鹿みたいに足をぶるぶるさせながら。

もう目が見えないからきょろきょろ見渡すけど、誰がいるかわからない。

鼻の前に手をおくと、匂いで少しずつ思いだすみたいだ。


少しずつ少しずつ私と母のことを思い出していった。

次の日の昼にはもう東京に戻らないといけなかったから、
もうず~~っとありったけの時間一緒にいようと決めた。


ずっと膝の上にのせて頭をなでながら仕事をした。
すると私が所用で少しリビングを離れると、
歩きまわって探すようになった。

目が見えないため頭をぶつけながらだが、
さっきまで立ち上がれなかったことが嘘のように
ずっと歩き回る。

それらか外に散歩にもいった。

夜みんなでご飯を食べながら、
「まだしばらくは元気そうだね」
「ミニチュア・ピンシャーの長生きのギネス記録18歳だから超えちゃうんじゃない?」
なんて話しをした。

翌日も沢山抱っこして、
別れ際にはずっと悲しい声でなくから、
「また年内にくるからちょっとだけ待っててね」
と伝えた。


東京に戻り、次の日に父から思いもよらぬ連絡がきた。

「急に弱ってしまって、もうだめかも」



そして、その2日後にこの世界から旅立った。
つい数日前まであんなに歩き回ったのに、びっくりして実感がわかなかった。

私たちが会いに行くのを待っていてくれたのだろうか。

最後に会う時間をくれてありがとう。
お疲れ様。


犬はこの世界を旅立つと、
身体と魂が切り離されるため、
病気や痛みがなくなるらしい。

きっと今頃は、
先に旅立った「ピン」と合流したのではないか。

そして足は丈夫になり、目ははっきりと見えるようになり、
いつものように2人で駆け回っているのだと思う。


「ピン」と「シャー」に少しでも言葉が届くかなと思い、
それからは毎日家の近くの神社に足を運んだ。

なんだか声が届く気がしたから、神様に2人と出会わせてくれてありがとうとお礼をしたあとに、沢山話しかけた。


あちらの暮らしはどうですか?




学生の頃は嬉しい事、しんどいこと何かあるといつも2人に話した。

だから急に言葉を届ける相手がいなくなった感覚だ。
もう何年間も一緒に過ごしていなかったのに。


自分の身体の中に言葉や感情がいっぱいになった。
だから外に出したくて仕方なくて、

最近は絵をかいて、踊って、言葉をかきおこしている。

出して出して出しまくると、すっきりした。
もういつも通りだ。


次に私が2人に会った時に沢山新しい話をできるように、
「こんなことがあったんだよ!素晴らしいんだ!」

といえるように、
また自分の道をどんどん進んでいこう。

大切な人を、大切にして生きていこう。


そんなことを考えていた1週間だった。



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