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あのときの気持ちにチューニング

夕方バスに揺られていると、陽の光に紛れてキラキラと雨粒が降り注いできた。

前に座っていた子どもが窓の外を指差しながら、お母さんと「きれいだね」と話している。

そんな会話をBGMに、わたしの意識は、これから向かうスーパーで何を買うかに向いていた。


バス停を降りたとき雨はもう止んでいた。
スーパーに入ろうとすると、入口のところでみんな空に向かってスマホをかざしている。

そのカメラの先を見上げると、夕空にうっすらと虹がかかっていた。


虹を最後に見たのはいつぶりだろう。
遠い昔のような気がする。
社会人になってから見たことはあっただろうか。

そう思ってスマホの写真フォルダを見返すと、社会人になってすぐ、黒部ダムにいったときの写真が見つかった。

ダムの水しぶきに光が反射して、くっきりとした輪郭の七色の虹が写っている。

あのときは、ただ目の前の虹の美しさに驚いて、無意識のうちにシャッターを押していた気がする。
あの日の暑さも、水流の激しさも、吹き飛ぶくらい鮮烈だった。


きっとあのあとも、わたしの目の前に虹は何度も現れていたんだろう。
仕事のこと、今晩のメニューのこと、LINEの返信、あちこちに向く意識が、虹を捉えられていないだけだ。きっと。


バスに乗っていた子どもみたいに、目の前の出来事に夢中だったときが、わたしにもあった。

あのときの気持ちに、わたしはもう一度チューニングできるだろうか。

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