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進歩のない読書

 あのピンクの柔らかそうな優しいフォルムと、自分を型にしてセメントで家を作る、間取り図みたいなページが大好きで、幼稚園の図書室で毎回毎回バーバパパの絵本を借りていた。何回も同じ絵本を借りて帰るわたしに、母は「進歩がないね」と言った。

 言われた後、それでも負けじとバーバパパを借りたのか、がっかりして、母の期待に応えることを意識して異なる本を借りたのかは、もう覚えていない。また借りてきたの?進歩がないね、の口調だけは、もう何十年も昔の話なのに、その瞬間の映像が思い描けるくらいよく覚えている。
 わたしから「今日もこれを借りてきたの」と見せたのか、カバンに出し入れしてるのを見咎められたのかは覚えていないが、母の言葉を待つ間のわたしは、自分の好きなものを知ってもらえる、という期待を持っていたように思う。それが好きなんだね。ただそれだけの言葉で良くて、ママも好きだよ、とか、かわいいね、とか、そういう共感さえ求めて無かったと思う。

 先日立ち寄ったPLAZAで、PAUL & JOE とバーバパパ50周年記念コラボの商品が展示されているのを見つけた。今や在宅勤務で、人前で文具を使う機会もなく、あったとしてもこの年でキャラクターものの雑貨を仕事で使えるわけもないのに、何てかわいいんだろう…!わたしはこれが好きなんだ、大好きなんだ!という気持ちを確認するように、実用の機会もない文具類を片っ端から購入してしまった。
 その日は休日で、職場の後輩とランチに行く予定で、待ち合わせた際に「何を買ったんです?」と大きな紙袋を覗き込まれるのが少し恥ずかしかった。
 「バーバパパ好きなんですか?」と言われて、そう、昔から大好きで、見つけて思わず散財しちゃったんだよね、と言い訳がましく話すわたしに、ただ「へぇ、いいですね」と返してくれたのがよかった。

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