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クリェッチェ誕生譚【供養】

ぼんやりと目を開けると、世界は柔らかな黄色い溶液で満ちていた。球体のガラスケースの中で、自我と呼んでいいか分からないものが芽生えはじめていた。
覚えているの、慌ただしく行ききする大きな人々だ。薄暗い潔癖な室内で、右往左往するそれをぼんやりと眺めた。他にすることも、できる自由も無かったからだ。時間を経る毎に、溶液の色彩は薄くなり、覗き込む人の目には、好奇心の色が隠さなくなっていった。
自分でもわかる。完成していく自分の肉体が、彼らの望むものだった事を。


(いつまでボクはこうしているのだろう…)
ふわふわの小さな手で、届かない外を思い。平たく伸びる足はガラス容器の底を触る。
心を占めるのは外への渇望だ。このガラス容器は薄く、人が発する振動は容易に響いて共鳴した。
『リリースまであと半年……長いようで短いが。それでもキミが産まれたことにワタシは感動を覚えるよ。…………長かった、本当に。気が遠くなるほどに。早くみんなに合わせたいよ。』
その研究員は時間があれば僕を見ては、独りごちるのだ。僕が聞いているだなんて、思ってもいないだろうに。
『あとはあちらが完成すれば、きっとみんなも喜んでくれるだろうな。あー…。急かしたい訳では無いんだ、でも構造が複雑で…………』
彼らの研究対象は、ボクタチだけでは無いらしく。そこのブショが完成しないからリリースに間に合わないのでは無いかと、彼は酷く心配していた。
彼は、この実験室で並ぶ多くのフラスコの中で、塊をもつ生命を。…そう、ボクタチの事を”リヴリー”と呼んだ。

ある日溶液が完全に透明になり、僕の視界は晴れた。カラカラになったフラスコで、苦しみながら理解した肺呼吸は、僕は外へ出るのに必要な試練だった。
不安定な丸い底を右に左に。前へ後ろへ。体をガラスへ押し当てると、確かに揺らぐ気配を感じる。恐怖と緊張が僕の心を占めたが、それでも揺らがない好奇心が体を動かした。
(外には何があるのだろう、彼が話していた完成しないもうひとつの研究とはなんだろうか…)


===
研究所内は目に見えるほど忙しく、各々が白衣をはためかせ奔走していた。
初期実装予定のリヴリーの研究は大成を成して、あとはリリースを待つばかりだ。ピグミーやモモス、コルヌレプス。
ただ、、別の部署で研究中の”ホムンクルス”の研究が遅延しており、専門担当以外にも駆り出される始末だ。
『これが本当に動くものなのか……』
『理論上は問題ないはずなんだが、緩慢な動きしか、見せなくてね…』
『これじゃまるでトルソーだな』
リヴリーよりも大きな実験器具、その周りには触媒が散らばり、人型の一体が呆然とガラス玉のような瞳で虚空を見つめている。

1人の職員がガラス容器を小突く、薄いガラスから響く音、それに対してホムンクルスからの反応はほぼ無いに等しい。
『……』
『この有様じゃ、リヴリーの世話を任せるには難しいな』
『…っ、理論上は問題ないんだ!何が一体足らないと言うんだっ』
『取り乱したところで生産性は皆無だ、さ、1から公式を見直してみよう』

担当の奴の目には焦りが見えた。もうリリースが近ずいているから当然か。
彼の辿った公式をもう一度さらい、感情と心の研究を担当する者も呼び寄せて、議論は続けられた。

===

ピョコ、ヒョコ。
どうもこの大きく平たい足は、あの人間のように素早く動くのには適していないらしいと、僕は痛感した。
大きく長い耳は音を聞くのには優れていたが目立って仕方が無い。
彼らは、どうやらとても忙しいらしい。
僕がひとり歩き回っていても誰も気にも止めていなかった。好都合と色々なものを見て回った。彼らはフチの茶色くなったカップで、真っ黒な液体を口にしたり、ボサボサな毛並みも気にせずな、大きな体を屈めて眠っていたり。離れたところでは喧々諤々、低い声でぶつくさと、人々が何か話していた。その中に愚痴をこぼしに来る彼もいるのはか分かったが、これといって興味をそそるものではなかった。

僕の冒険は続いた、室内の至る所を見て周り、タコ足の執事と、一瞬目があったような気がしたが、恐らくすぐに隠れたから大丈夫だろう。
大きくて穏やかそうな魔人は、今後展開する商品を見たことの無い小柄な研究員としていた。あれは雌と言うのだろうか?僕にはわからない概念だった。
周りが見られる少し離れた机からは甘くて美味しそうな香りがした。机の上には一体何があったのだろう?


【反省とこの続きの構想だけ】

甘い香りのする机の主はアキラ所長の予定でした。クリェッチェになる、コルヌレプスはこの後ホムンクルスの実験場に迷い込み、溶液の中でプカプカしているホムンクルスの一体と邂逅します。衝撃的なその出会いからクリェッチェはホムへ懐疑的な目を持つようになります。

迷い込んだ生まれたてコルヌレプスをアキラ所長がすくい上げ、フラスコのあった部屋へこそこそと連れていき、『内緒だよ 今見た事。このままだと怪我をしてしまうね とりあえず、この箱庭にいたらいいよ』

と、言った流れで何も置かれていないアイランドの疑似体験をすることに。

そして今に至る。

といった、終幕を予定していました。

もっと私のいつも書いているファンシーな、絵本のような物にするのなら、研究所や、実験場、器具では無く。ベルのような魂の欠片と夢の混合物にすれば良かったかな。と、そうなると全書き換えが必要そうなので、この話はおじゃんとします。

研究所の人を書いてて楽しかったけどもね〜

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