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『本棚劇場』~角川武蔵野ミュージアム~


people had to adopt themselves to a new and rather strange situation, one that is peculiar to big cities...The pursuer, the crowd, and an unknown man who arranges his walk through London in such a way that he always remains in the middle of the crowd. This unknown man is the flaneur...the flaneur was, above all, someone that does not feel comfortable in his own company. That is why he seeks out the crowd. The flaneur is someone abondoned in the crowd.

 ー人々は、新しい、むしろ奇妙な環境ー大都市特有のーに自分自身を適合させなければならなかった。・・・そのようなわけでロンドン中を歩かんとする、それは追求者であり、群衆であり、或いは見知らぬ人、彼は、常に人々の中心に位置している。この、名もなき人物こそ、フラナー・・・フラナーとは、つまり、自分が属する仲間内では居心地良さを感じられない誰か。それこそが、彼が人ごみに何か求める理由。フラナーとは、群衆に捨てられた誰かなのだ。ー

 ーfrom Walter Benjamin "Charles baudelaire" (from Poe, "The Man on the Crowd")


 埼玉県所沢市 ところざわサクラタウンへ行ってきた。日本最大級のポップカルチャー発信地として2020年にオープン。KADOKAWAと所沢市の共同プロジェクトで、『誰もが住んでみたい、訪れてみたい地域づくり』を進める『COOL JAPAN FOREST構想』の一環として誕生した。近隣には、カフェやチームラボの作品である光のオブジェ『どんぐりの森の呼応する生命』を胞する武蔵野樹林パークがあり、その緑豊かな公園を抜けると、まず、写真にあるような非常にインパクトある大胆な建物、角川武蔵野ミュージアムが目に飛び込んでくる。階段を上ると広い敷地。ミュージアムの他にも、神社、書店、飲食店、ホテル、オフィス、パビリオンなどが点在する。休日などは、広場でショーやフリーマーケットなども行われるらしく、文化推進に貢献する一大エリアとなっているのだ。


 特筆すべく、この巨大な岩のような外見の、不気味なまでの不動感を誇る建物 ー 角川武蔵野、内部は、5階から構成され、日本庭園から漫画図書館、アートギャラリー、レストランなどが入る、いわゆる総合的な文化複合施設だ。

 気になるのは、その大きさに反してエントランスのなんとさり気なく小さい事。思い返せば、別名ロック ミュージアム。なるほど、古代、人間の先祖が初めて住み着いたであろう岩の洞窟にも思えてくる。そうすると、来館者は、その洞窟へと入り込み、知識の発掘探求の旅へと出かけるみたいだー。正に『知の考古学』。そうすると、アートギャラリーは、さしずめ洞窟に残されている人間最初のアートである壁画のようにも見えてくるのではないだろうか。


 さて、お目当ての4階 本棚劇場へと向かう。

 

 エレベーターが開き、降り立つと、様々な種類の本が、ざっくばらんのように陳列され、私達を出迎えてくれる。一応、『記憶の森へ』『世界歴史文化集』『むつかしい本たち』『脳と心とメディア』等々、大きく9項目に分かれて選ばれている本たちらしいが、並べられ方を見てみると種々混在して隣り合い、なかなかの乱読派の本棚のようだ。或いは、来館者100人100様の嗜好の体現化ーリクエストに応えるかのような。


 いずれにしても、個々人の脳内にフラッシュバックする様々の記憶、思い、社会的文化的背景が可視化されていて、ふらふらと眺めて歩くうちに、ふと、今、ここで読みたい一冊に目が留まり、手に取る機会もあるかもしれない・・・新鮮な、一冊との出会いというものを期待してしまう。

 そう、ここは、囲まれた本たちに自己を投影させながら歩みを進め行く、さしずめストリート・・・本は、個々人の脳内を代弁してくれるツール。個々人の気持ちを汲み取ってくれる。そうやって、自分というものを整理しながらフラフラと自由になってゆく・・・。


この日は、アート作品も混在していました。まるで、この本棚の所有者が着ているようなシャツと思考の文面化?本に埋もれたこの方のお部屋にお邪魔させてもらっているような気分?


 そして、奥へ奥へと進んでゆくと・・・


 通称『本棚劇場』!!!

 劇場というと、ギリシャの古代円形劇場や、イギリスのグローブ座を思い浮かべるが、なるほど、ここは、そのような、地球上で繰り広げられている人間社会の縮図という演劇が見られる劇場なのか・・・本をもって小さなひとつの世界を作り上げている。同時に、今度は本が観客となって、彷徨いこんできた来訪者たちを見下ろしているかのよう・・・



 全く違う興味や考えの雑多な人間たちが隣り合い、交差し合い、それぞれの興味の赴くまま本を手に取り、楽しみ、そんな自分を振り返り、向き合う場。

 この、人類の知のアーカイブの中奥深く、劇場は今日も、知の発掘を求め入り込んでくる人々を誘うのだろう・・・。

 ちなみに、私は母と一緒に出掛けたのだが、各々ふと手に取った本はー文芸書『沖縄の女性俳人』と、漫画『おかあさんライフ』だった・・・。記念すべき書籍との素敵な出会いに感謝。

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