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フランス初、本格高級天ぷら店「天善」の新ジャガイモ@パリ・ルーヴル美術館そば フランスの週刊フードニュース 2022.06.29

今週のひとこと

パリのオペラ座・ルーヴル美術館界隈は、日本人街といわれており、さまざまな日系企業や和食レストランが集結しています。Sainte Anne通りは、まさにそんな店舗がひしめく通り。そこからオペラ大通りを挟んだ対岸、ルーヴル美術館近くに「ZEN(善)」という和食店があります。お店では、定食やカレー、丼もの、ちらし、握り寿司などと料理のバラエティが豊富で、価格帯と味わいのバランスが優れた優良店として、2006年の創業から日仏の多くの人から評価が高く、長く愛されてきました。

その「善」の地下に、この6月末、高級天ぷらを供するカウンターのみの12席の空間「天善」がオープン。料理長を務めるのは「善」にて6年間働いていらした近藤次郎さん(東京の和食店をご存知ならばピンとくる、なんともいいお名前です!)。日本で磨いてきた腕を発揮できる舞台に立っています。その天ぷらのコースを味わってきました。

近々、取材に入ろうと企画中ですので、詳しくは記事が完成した時にお伝えいたしますが、オーナーとしてパリに生きた、日本人魂を貫いた実業家、故大川善さんの心意気が隅々から伝わってまいりました。

日本、とくに京都で食べ歩いたのと同等の、本物本格の高級天ぷら店をオープンしたい。京都の宮大工の方を数ヶ月も招聘し、木版のカウンターや板貼りの四方壁はもちろん、素材はすべて日本から運んで設えた内装。床は牛皮で覆われており、大川善さんの、人生を存分に楽しまれた粋なお人柄が伝わってきます。2020年9月にオープン予定でしたが、大川さんは2021年1月に逝去。そして、やっと今、オープンにこぎつけたのです。

店のカウンターの厨房に、飴のように黒光りする古材の柱が一本、店を支えるように据えられています。滋賀県朽木の古民家から運ばれた柱だそう。今始まったばかりの、削りたての木のような造りに、悠久の時が流れる。

大川さんの遺志を継ぐご家族と、さらに、血縁を超え、固く絆の結ばれたスタッフの方々が、しっかりと店を守っていくのだなということも、同時に感じました。

天ぷらは鮨と同様、職人芸の技がものを言う料理です。素材選び、下処理、油管理、温度管理。タイミング。衣の中で、素材自身の水分により素材が蒸しあがる。フランスの四季の素材が、今後どのように味わえるのかも含めて、期待感が高まります。3つ星シェフ、アラン・パッサールが、塩釜で火を通した野菜を登場させ、料理人たちが目を覚ましたように。近藤さんが揚げられた、イカの甘みとその食感、新ジャガイモの甘さ、皮の香ばしさなど、フランス人にとって、素材への新しい発見につながるのではないかと思いました。

嬉しかったのは前菜箱に、揚げたての茄子を赤味噌田楽で出して下さったこと。前菜というのは、とかく、作り置きのものをそのまま出しがちですけれども、目の前で揚げてくださった茄子を差し入れたのは、カウンターでいただくお客が喜ぶ一興。

お客の様子を見て料理を出すのが、カウンターという特殊なあり方の役割であるのに、シェフのエンターテイメントスペースになりがちな近頃。

その茄子田楽は、カウンターに立つ料理人さんとお客の心をしっかりと繋ぐ太い絆として、最後まで引き継がれておりました。心の込められたサービスを下さった、スタッフの皆様に感謝!

今週のトピックスは今週のひとことの後に掲載しております。私自身も勉強になる、ヒントになると感じる話題を、食業界全般に携わる方々をはじめ、さまざまな方々へ、毎週ご紹介したいと思っております。どうぞご笑覧ください。【A】Barilla社、研究開発の末の新しいパスタ発表。【B】ブルターニュ地方カンカル の2つ星シェフ、ユーゴ・ロランジェ、ブラッスリーオープン。【C】リモージュのブラッスリー、ウクライナ難民をスタッフに受け入れ。【D】エコロジー、エコノミーを謳う新進気鋭のホテル「ELKO」。

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