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フランスから、食関連ニュース 2019.10.22

フランスにおける旬でコアな食関連のニュースを、週刊でお届けします。

1. 今週の一言

2つ星レストラン「ル・グラン・ヴェフール」のシェフ、ギー・マルタンさんが子供たちの「味覚教育」に積極的に取り組んでいたころ、公立小学校の10歳の生徒たちを店に呼んで開催した授業に参加したことがありました。

パレ・ロワイヤルの歴史とともにあり、フランス革命をも生き抜いた1784年創業のレストラン。歴史的建造物にも指定されたゴージャスな内装は息をのむばかりですが、そのバンケットに20人ほどの子供たちを座らせて授業が始まりました。はじめは、水のテイスティングから。水道水、ミネラル水、湧き水の3種類。チーズも3種。スーパーで売っているハードチーズとチーズ屋で売っているカマンベールチーズ、農家直送のブルーチーズ。それに対して、シェフはどれをおいしく感じるかと問います。

多くの子は、水道水やスーパーのチーズがおいしいと手を挙げました。それに対して、シェフはどうして?と質問します。すると勘の鋭い子がいるもので「いつも飲んでいるから、食べているからです」と答える。気づきを与える、与えられる、そんな問答を繰り返しながら、フランスの食文化の豊かさも伝え、シェフ自身のクリエーションのテイスティングにも及んでいきます。最後に子供たちに味わってもらったのはオレンジ花水の入ったゼリー。どんな味がする?に対して、次々に手が挙がって味を上手に表現できるようになっていたのは、たった90分の授業の終わりに、同伴をしていた先生方のほうがタジタジでした。そのときに、たまたま日本の味覚教育を推進していらっしゃる方々が同席されていたのですが、この授業に、お客用のバカラのコップやオリジナルディッシュをそのまま使っていたのに驚いていました。これが日本なら、紙コップに紙皿でしょう、何かあった時の責任問題を回避するために仕方がないと。しかし、それでは味覚教育も本末転倒。子供だからといって容赦しない、大人と同じように扱う心を子供たちは真摯に受け取るもので、バカラのコップを大切そうに子供たちが扱っていた様子も、心に残りました。リスペクトの心は、こうして生まれ育っていくに違いないと。

先日の台風19号の際に。ホームレスの方が避難所に駆け込んだところ、受け入れを拒否されたというニュースを目にしました。「マニュアルに路上生活者への対応が定められておらず想定外だった」ことが理由だそうです。マニュアルにないは逃げ口上で、誰もが責任を取りたくなかったのではないかと想像してしまいます。

もしもバカラのグラスを壊してしまったとします。そのときに、誰かが怪我をしてしまうかもしれない。いかに高価であるかも咎められるでしょう。壊した人間に、反省の機会が与えられるのには間違いはない。そうした経験が一つ一つ積まれるからこそ、相手の傷もわかるようになって、人も社会をも思う、深い優しさが育つのではないかと思います。責任をしっかりと取る大人の背中を見て、子供も社会も育つ。ブルターニュ地方カンカルで3つ星を得ていた料理人で、ルレ・エ・シャトーのスポークスマン、人道的な生き方と気高さは、今も多くの人々の心を打つオリヴィエ・ローランジェさんから、「日本の人たちには、社会とEngagement(契約)する意識、倫理観が欠けているのでは、と思うことがある」と言われた言葉が、鋭く胸に突き刺さりました。(トップの写真はロランジェさんを継いだ息子がシェフを務める2つ星レストランに先日訪れたときの一皿。ここにヒメジの炭火焼を乗せていただきました)

2. 今週のトピックス

【A】ベルギーのレストラン、トイレもふくむ汚水をリサイクルして飲料水に。ベルギー、ブルージュが州都のウェスト=フランデレン州クールネ市にあるレストラン「Gust’eau」。オランダとベルギーのイノヴェーションチームI-QUAが開発した持続可能な水の再利用システムを取り入れて、レストランで水の生活排水を浄化し再利用し始めたとの発表をしました。キッチンで使用した水だけでなく、し尿もリサイクルの対象であるということ。浄化には2段階あり、水洗用には、一度フィルターに通した水を雨水と一緒にしてタンクに戻し、残りかすは植物の肥料に使います。飲料用は、さらにテクノロジーを駆使ししたフィルターにかける。最も微細な水の分子を取り出した液体は浄化が行き過ぎるために、最後の段階でミネラルを加えて整えるのだそうです。この飲料用の水は、コーヒー、氷、テーブルウォーターとしてもサービスされます。

このシステムを取り入れれば、近年深刻化している水不足の夏期などにも備えることができるということ。味も匂いも全く通常の水と変わらないという発表がされ、ポジティブにとらえられているようです。そもそも蛇口から出てくる水のほとんどが浄水場で濾過されたものであり原則は変わらない。それが水道管を通ってくるという過程も鑑みると、浄化されたばかりの水質を先入観で疑問視できないとも。

【B】「し尿」を肥料とするスタートアップ企業。イノベーティブなスタートアップ企業を支援するフランスで最大のコンクール「La Fabrique Avia」。保険会社アヴィア・フランスが2016年に始めたメセナ活動で、ファイナルは一般投票も行われます。ちなみにアヴィアの本拠地であるアヴィア・イギリスは、2015年に若い企業を支えるファウンダー・ファクトリーを立ち上げていますが、アヴィア・フランスとの提携を深めていくとの指針。

2019年の「環境とエネルギー移行」カテゴリーにおける優勝者は1300のプロジェクトから選ばれた、ジロンド県(ボルドー市が県庁所在地)を拠点とするTOOPI ORGANICS。フェスティバルなどイベント会場に設置されたトイレから集めた栄養価の高い「し尿」を、バイオテクノロジーを使って、100%オーガニックの肥料にするというもので、65000ユーロ(約800万円)の賞金を手に入れました。パスツール研究所、CNRS(フランス国立科学研究センター)との研究もすすめ、2018年にはINRA(フランス国立農学研究所)による調査分析で、通常の化学肥料にくらべより効果的との判断。Vinopole(ジロンド県農業組合)の協力で、ブドウ畑へのテストが開始されるということ。2021年には販売許可を得て商品化することを目指しています。

【C】第7回「ワイン・ブラインドテイスティング世界チャンピオン」先週末に開催された、La Revue du Vin de France(フランスワイン雑誌)主催の第7回「ワイン・ブラインドテイスティング世界チャンピオン」にて、世界27カ国が参加しましたが、フランスは112ポイントを得て、2014年ぶりにタイトルを奪還。また、2位は103ポイントの中国、3位は95ポイントの台湾と、アジア勢が躍進したことにも注目が集まりました。ベルギーは惜しくも94ポイントで4位につけ、日本は17位。アメリカは25位に。内容は、世界中から集められた6種ずつの赤ワインと白ワイン(フランスのワインは4種、スペイン、ドイツ、ギリシャ、アメリカなど)の主となる品種、生産国、名称、ミレジム、可能であれば生産者も当てるという難関でした。ウクライナ、カザフスタン、ルーマニア、エストニアなど東欧の国の初参加も話題に。ルーマニアは11位に。

【D】パリの屋根にサフラン農場を広げる。 パリの緑化活動とともに、農業地を広めようという動きも広がっています。「ビヤン・エルヴェ」は4人の姉妹が立ち上げた企業。パリをよりポエティックに美しくしよう、「パリの屋根にサフランを」のコンセプトで、アラブ世界研究所、ギヨーム・ティレルホテル調理師学校、パリ13区ダヴエル通りのモノプリの屋上、モンルージュの農地など、ペイザジスト、庭師の力を借りサフランを栽培しています。サフランのめしべだけでなく、石鹸の小生産者や養蜂家との取り組みで、商品生産にも挑戦。農場のビジットや収穫、めしべの選定のアトリエも開催しています。開花する10、11月のアトリエは見逃せません。https://bienelevees.com

3. 今週の日本@フランス、ワールド

【A】ロンドン「The Araki」3つ星をすべて失う。東京・銀座の3つ星を所有する鮨店「あら輝」を閉めて、2014年ロンドンのメイフェア地区にThe Arakiをオープンした荒木水都広氏。2016年版にはミシュラン・ガイドの2つ星、2018年版では3つ星と登り詰めて、カウンター10席の当店に予約を入れるのはほぼ奇跡に近いといわれていました。今年の3月、荒木氏は、弟子のマーティ・ラウ氏に料理長の座を譲って、香港の新店に拠点を移すことに。荒木氏と変わらぬクオリティを遵守していたものの、発表されたばかりのミシュラン・ガイドでは3つ星から星なしへと降格。それに対し、ラウ氏は「ミシュランの判断を尊重する、新たらしい出立の機会としたい」と語っています。ただ、フランスには、2018年度版に3つ星を獲得したばかりのマルク・ヴェラ氏のレストラン「ラ・メゾン・デ・ボワ」が、2019年度版で2つ星に降格されたのを受け、不当な判断とミシュラン・ガイドに対し訴訟をおこしているという背景が。今回は3つ星からゼロという、前代未聞な降格でもあって、The Arakiへの評価に対するミシュラン側のコメントは、フランスでも注目されていますが、沈黙を守っています。

【C】「パスタ・ワールド・チャンピオンシップ」初のパリ開催。日本代表、弓削啓太氏がタイトルを勝ち取る。「パスタ・ワールド・チャンピオンシップ」は、パスタ製造会社「バリラ」が主催する、イタリアンパスタ界のワールドカップ。2012年に第1回目が開催され、今年で8回目を迎えましたが、第8回目のコンクールは10月11、12日の2日間、初めてパリにて開催され、14カ国が参加。横浜「SALONE 2007」料理長の弓削啓太氏が、日本代表としては2度目の挑戦で、見事タイトルを獲得。2012年の初回に青山「CICADA」料理長の山田剛嗣氏が優勝して以来の2人目の快挙でした。今年のテーマは「アート・オブ・パスタ」で、弓削氏はPenne Gorgonzola parfumo Giapponese(和風味のゴルゴンゾーラペンネ)で挑みました。ペンネ、ゴルゴンゾーラという黄金のイタリア素材に、日本酒、山椒、柚子という日本の食材を掛け合わせ、さらに牡蠣も加えて、うまみを足すことも忘れないという仕事が賞賛されました。

4. DOMA最新号や活動のお知らせ

弊社DOMAのプロジェクト・マネージャーであるマリナ・メニニは庖丁の専門家であり、パリ12区アトリエDOMAにて、研ぎ教室を開催しております。切れる庖丁は素材へのリスペクトの心を生む。環境保全が求められる世の中に、庖丁を通しても貢献していきたいと思います。https://www.affutagecouteaux.com


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